二人は建設会社の同じ職場で出会った。バブル時代の営業部。和彦は若い頃から頭角を現すタイプの営業マンで、知佐子が短大を出て入ったときにはすでに一目置かれる華のある存在だった。
彼のアシスタントに配属された知佐子は、寡黙にサポートした。派手に動き回る彼の経費整理は目を見張るような額のものもあったし、杜撰なところもいろいろあった。
それでも、知佐子の采配で経理部との間をうまくつなげることができていた。実直で地味な彼女の良さを和彦は見抜いていた。というより、自分にないものを補ってくれるのはこういう人しかいないんじゃないか、と思ったようだった。
プロポーズは突然だった。
和彦は車で知佐子を横浜に誘い、港で、トランクからバラの花束を出して「結婚して下さい」と言った。
そんなドラマみたいなことをされて舞い上がってしまった知佐子は反射的に「はい」と言ってしまった。
苦労は結婚してから始まった。
何事にも堅実で地道な知佐子と、派手好きの和彦は何かにつけ、意見が平行線になった。
あるとき、知佐子は百均で買ってきた造花のグリーンをキッチンに飾った。日々の家事がちょっと楽しくなるような気がしたのだ。こんな安いものでこんなに素敵な気分になれるなんて、と鼻歌が出るような気持ちだった。
だが、いつもように接待で酔っ払って帰ってきた和彦はそれを見るなり、怒鳴った。
「貧乏くさいんだ、おまえは。こういうの、やめてくれよ」
「…」
知佐子の目からみるみる涙が溢れた。怒鳴られたことではなく、良かれと思っていたことが夫には反対に映ってしまうという寂しさだった。それに「あなたがうちに入れてくれるお金ではこんなことしかできないじゃない」と言いたい気持ちもあった。でもそれを言ってしまってはおしまいだと思った。
泣きながら、知佐子はグリーンを外して捨てた。