
何かにつけ「貧乏くさい」とか「おまえはけちだな」とか言われていたが、明らかに使えるお金は決まっているから、節約は必須だった。
飾るのはダメなら、掃除はいいんでしょとばかりに部屋を磨き上げた。食費も1ヶ月3〜4万円でやりくりできるようになり、気づけば主婦雑誌から「節約の達人」などと取材されるようになった。それがまた和彦の気持ちを逆撫でした。
「俺が金を渡さないみたいじゃないか」
そう言って怒った。知佐子はますます無口になり、節約のことばかり考えるようになった。
娘の美恵子が小学生になった頃、知佐子は卵でお雛様をつくった。
卵の底を太い針でつついて中身をだし、殻に黒胡麻で目をつけて、金色と赤と緑の折り紙を細く切って重ねた襟元に見せる。マジックで黒く髪を描き、小さな王冠と、黒い烏帽子もそれぞれにのせた。
美恵子は喜んだ。
「わあ、ママ、すごい。お雛様だ」
赤い折り紙をお座布団のようにして置く。桃の花とひなあられは買ってきて、棚の上に飾った。金糸卵をたくさんのせたバラちらしもつくった。
「♪あかりをつけましょ、ぼんぼりに」
歌っていると、和彦が帰ってきた。その日は酔っ払っていなかった。
「おかえりなさい」
二人の前にやってくると、じっとたまごの雛人形を見た。
「はぁ、また。なんだこれ」
知佐子の中で何かがプツンと切れた。
「なんだって…お雛様よ。子どもの頃に、うちにお雛様がなかったから、おばあちゃんがこうやってつくってくれたのよ。うちだって、本当はお雛様、あったほうがいいのよ。この子、一人娘なのよ」
初めての知佐子の剣幕に、和彦は「え」とおおのいた。
「いや、わかるけどさ。…ごめん」
妙に簡単に謝ってしゅんとした和彦に、知佐子の頭に上った血もスーッと引いていった。
和彦は続けた。
「あのさ、転勤が決まったね。仙台。一人で行く」。