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    第14回『たまご雛』

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連載読み切り短編小説『香りの記憶』第14回『たまご雛』

 何かにつけ「貧乏くさい」とか「おまえはけちだな」とか言われていたが、明らかに使えるお金は決まっているから、節約は必須だった。
 飾るのはダメなら、掃除はいいんでしょとばかりに部屋を磨き上げた。食費も1ヶ月3〜4万円でやりくりできるようになり、気づけば主婦雑誌から「節約の達人」などと取材されるようになった。それがまた和彦の気持ちを逆撫でした。

「俺が金を渡さないみたいじゃないか」

 そう言って怒った。知佐子はますます無口になり、節約のことばかり考えるようになった。
 娘の美恵子が小学生になった頃、知佐子は卵でお雛様をつくった。
 卵の底を太い針でつついて中身をだし、殻に黒胡麻で目をつけて、金色と赤と緑の折り紙を細く切って重ねた襟元に見せる。マジックで黒く髪を描き、小さな王冠と、黒い烏帽子もそれぞれにのせた。
 美恵子は喜んだ。

「わあ、ママ、すごい。お雛様だ」

 赤い折り紙をお座布団のようにして置く。桃の花とひなあられは買ってきて、棚の上に飾った。金糸卵をたくさんのせたバラちらしもつくった。

「♪あかりをつけましょ、ぼんぼりに」

 歌っていると、和彦が帰ってきた。その日は酔っ払っていなかった。

「おかえりなさい」

 二人の前にやってくると、じっとたまごの雛人形を見た。

「はぁ、また。なんだこれ」

 知佐子の中で何かがプツンと切れた。

「なんだって…お雛様よ。子どもの頃に、うちにお雛様がなかったから、おばあちゃんがこうやってつくってくれたのよ。うちだって、本当はお雛様、あったほうがいいのよ。この子、一人娘なのよ」

 初めての知佐子の剣幕に、和彦は「え」とおおのいた。

「いや、わかるけどさ。…ごめん」

 妙に簡単に謝ってしゅんとした和彦に、知佐子の頭に上った血もスーッと引いていった。
 和彦は続けた。

「あのさ、転勤が決まったね。仙台。一人で行く」。

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