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    第14回『たまご雛』

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 それからも、いろいろあった。
 和彦は月に2回帰ってきた。1回は知佐子が仙台に出向いた。そのとき、女性のいた形跡を見つけたこともあった。
 それでも、夫婦はお互いに離婚を口に出すことはなかった。
 知佐子は思う。ずっと隣にはいるけれど、向かい合うことはなかったなと。
 少し、いつも空間があった。でも空間があっても、いつも隣にいるんだな、と思った。それでいいんだ、と思っていた。

 もうすぐ、また桃の節句がやってくる。

「そうだ」

 ふと、思いついた。あのたまご雛をつくって、遺影の前に飾ろう。もう嫌がったって、文句も言えないだろう。
 知佐子は冷蔵庫から卵を取り出し、針で突いてみた。が、あまりにも強く突きすぎて、かなり割れてしまった。

「難しいな。あのときはできたのに」

 そう思いながら、自分の夫への小さな仕返しに呆れ果てて、遺影に話しかけた。

「卵、割れちゃった。どうしても嫌なのね、私のセンスが」

 遺影は笑っていなかった。じっとこちらを見て「そうだよ」と言ったように見えた。
 知佐子は桃の花を買ってきて飾り、今日はもう一本、お線香をたいて、手を合わせた。

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作者プロフィール

森 綾 Aya mori
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。
92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
著書などはこちら

挿絵プロフィール

mio.matsumoto
https://www.miomatsumoto.com/
英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)修士課程修了。
ロンドンでキャリアをスタートし、現在は東京を拠点に活動。
スタイリッシュでシンプルな表現を特徴とし、ファッションや広告、プロダクトなど多様な分野でビジュアル表現を手がける。
文学作品の装丁や挿絵も多く、谷崎潤一郎『鍵』、俵万智『サラダ記念日』、村上春樹『アフターダーク』海外版装丁などを担当。
英国出版社より著書『My Diary』を刊行。

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