土台にあったものだけではなく、ここ数年はライブでもクラシックの曲をうたうこともありました。
「3年くらい前からそういう流れがありました。オペラのアリアをカバーしたり、ピアノ、フルート、チェロという編成でクラシックホールで歌ったり。そこで今回のコンセプトが浮かび上がってきたところも大きいですね」
今回のアレンジャー、大口俊輔さんとも、ここ数年のイベントでの仕事がきっかけになりました。
「太宰治の『女生徒』をアニメにして、主人公の女性の声を私が担当して、大口さんが音楽を担当されてアレンジしてくださったというイベントが島根県立石見美術館でありました。それから、井の頭公園の彫刻館では小さな子どもたちも聴きに来られるようなライブを一緒にやりました。自分の曲で今までNHKの『みんなのうた』になったような曲や童謡の『ぞうさん』をうたったり。そういう活動のなかで、今回のアルバムに繋がったところもあります」
そして、プロデュースは、遊佐さんがデビューの頃から音楽を共に作ってきた外間隆史さんに17年ぶりに依頼しました。
「外間さんは深いところでわかっていてくださっているので、もう一つ先の遊佐未森をつくろうと話しました。そこへ大口さんが吹かせてくれる新しい風。ピアノと弦楽カルテットがメインですが、ピアノもフレーズによって、プリペアードピアノ、アップライトやグランドピアノを使い分けたり。音楽的な意見交換を進めて、スタジオに入ってからはわーっと進んだ感じでした」
いつもライブを共にしているギターやパーカッションのメンバーもレコーディング中から反応が良かったそう。
「最終的にエンジニアでやはり長いお付き合いのスコットランドのカラム・マルコムさんに音源を渡したとき、とてもいい、と言ってくれました。うれしかったですね。大人の作り方ができたなと思います」
ベテランの匠と若い才能が集まって作り上げる作品。遊佐さんは、今回、そこでデビューのときの気持ちを重ねていました。
「デビューした頃、青山のツィンタワーにレコード会社があって、そこへ入っていくときはいつも晴れていたなという記憶があります。晴れた空と雲を見上げていました。これから始まる音楽の世界へ、わくわくとちょっとの不安と、はりきった気持ちがあって。今回のレコーディングはそのときに似た気分がありました」。