俳優になって、憧れの松田優作さんと、リアルに会うことも叶った野村さん。なんと『メインテーマ』の撮影を見にきてくれたというのです。その時の様子を、まだ眩しそうに語ってくださいました。
「『メインテーマ』には桃井かおりさんがジャズシンガーの役で出ておられました。日活で撮影していたのですが、桃井さんと仲が良かった優作さんが、ふっと撮影を見にこられたんですよ。僕はもう、えーっ、て感じでしたね。他の人とは全然違うオーラ。あのオーラはなんて言ったらいいんだろう。夢の中から来た人みたいな」
その後、松田優作さんが行きつけの下北沢のジャズバー、レディジェーンで、桃井さん、森田監督とお酒を飲んだこともありました。
「僕はめちゃくちゃ緊張しながらそこにいました。優作さんの席、っていうのがあってね。優作さんはべらべら喋るわけじゃなく、ボソッと、何かおっしゃるんです。あの人は勉強家だから、僕にいい映画を観なさい、歌舞伎も観た方がいい。美術や舞台、素晴らしいものを観ることが、自分の演技の味になるんだ、とおっしゃっていました。すごく緊張感のある感じだけれど、黒いサングラスの奥にある目が優しかった」
野村さんは、その頃の先輩の役者さんたちの存在感に圧倒されていたと言います。
「あの頃の優作さんは30代前半だったと思うけれど、信じられないくらい男っぽくて大人だった。田村正和さんとも共演させてもらいましたが、田村さんもすごくそういう雰囲気があった。
あの大人っぽさは時代が作っていたのかな。今はどんどん若くなっている気がします。若くいるとか、綺麗でいるとか、外見的なところが求められて、そういうことって役者の精神にも影響しているんじゃないかとおもいますね」。