コロナ禍の前のここ数年は、舞台も増えていた野村さん。30歳ぐらいまでは映像の仕事にこだわっていたのだそうです。
「映画デビューでしたから。それにこだわっていたところはありました。それとね、始まったら止まらない舞台の仕事が怖かったのですよ。映画はワンカットずつ撮って、つなぎ合わせますから。でもやってみたら、これが楽しくてね。大人のコメディみたいなことも舞台でやっていて、またドラマや映画でもやってみたいな、と思ったり」
やっていないことの面白さは、最近、どんどん増えているようです。
「昨年の12月に大型バイクの免許を取得しました。教習所通って。ここで取らないと一生取らないと思って。それで、750ccと1100ccに今乗っています。乗ったら全然違うんですよ。遠出したくなるんです。ソロキャンプに行ったりするのも結構やっています。寂しがり屋なのに、一人でいるのも好きで。物を考えたり、自然を見たり。最初は大勢で行ってて、それもいいんですけど、どんどんシンプルになっていってね。家族は気を使わないからいいんですけどね。50歳を過ぎて、やっていなかったことをやり直している感じです」
50歳で再婚、小さなお嬢さんのいるあたたかい日常も大事にしながら。しかし、昨年12月はお母様を亡くされるという悲しいこともありました。
「母は心筋梗塞で急死しました。だから、毎日、お線香をあげています。お香の香りは、精神が安らぎますね。母のために手向けているのだけれど、自分も安らぐ。亡くなった母のためでもあり、見送った自分のためでもあるのかもしれません。昔はそんなこと、考えなかったけれど」
20歳ごろの自分が「10年できれば御の字」と思っていた役者の仕事も、30年以上。
「やる気なさそうさを醸し出していたでしょう? 本当にやる気なかったから。でも今は、いろいろ演じられることが本当に面白いし、どんどんやっていきたい」
松田優作さんや田村正和さんと間近に接した財産は、唯一無二。
その大人の香りとリアルに接してきた野村さんにも、またそんな香りが染み込んでいるよう。今度は野村さんがそれを若い人たちに感じさせる番なのかもしれません。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 初沢亜利(はつざわ・あり)
1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオを経て写真家として活動を始める。
東川賞新人作家賞受賞、日本写真協会新人賞受賞、さがみはら賞新人奨励賞受賞。写真集に『Baghdad2003』(碧天舎)、『隣人。38度線の北』『隣人、それから。38度線の北』(徳間書店)、『True Feelings』(三栄書房)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)。
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