人気者になったピーターに様々な仕事がやって来ましたが、偏見や誤解もたくさんありました。
「例えばね、週刊誌でインタビューされると、全部語尾を女言葉にされてしまったり。だんだん、自分とは違うピーターが作られてしまうのがとても嫌でした。それで、24歳の時、ニューヨークへ行ったんです。そこで本当にやりたいことに出会えました。舞台もたくさん観ましたね」
30歳を過ぎた頃、黒澤明監督の『乱』で重要な狂言師役に抜擢されました。
「その時は、池畑慎之介でいこうと思ったのだけれど、黒澤監督が、”ピーター”の方がみんな知ってるから”ピーター”でいいんじゃないか』っておっしゃってね」
さすがに3歳から芸事を仕込まれた池畑さんの所作はとても美しいもの。それ以前から時代劇の着物姿はありましたが、10代でも自分で着物をさっと着る姿に、スタッフは感心していたといいます。
「着物の着方、所作。そういうものがちゃんとしていると、ちゃんとしているから、ちゃんと扱ってもらえるのです」
お香をたくという習慣も、そんな所作とともに身についたことの一つ。
「楽屋で、稽古場で、最初にお香をたく。お客様をお迎えするときに、玄関でお香をたく。そういうことは当たり前だったのです。今は楽屋では先に入る人がたいておいてくれたりしますけれど。70歳を目前にして、そういうルーティーンにまた落ち着いている自分がいますね。桐の箱を開け、一本のお香を出して、煙が出るまでの所作がとても落ち着くのです」
ご自宅には、大事にしている香炉もお持ちだそう。
「鳥が羽を広げている形の、鉄の香炉がありまして。でも火を使うのはこの頃ちょっと怖いですね。だいたい、なんでもオール電化にしています」
好きな香りも決まっています。
「トイレットペーパーも白檀の香りのものを使っていますが、洋ものだとちょっと甘い香りが好きです。バニラとか、ココナッツとか」
生活の中に、自然と香がある。その当たり前さが池畑さんの品につながっているようです。