さて、池畑さんのお父様は人間国宝となられた舞の名手。池畑さんが跡を継ぐか継がないかは、大きな決断だったのではないでしょうか。
「父は四世です。それまでの家元は皆、結婚しない女性でした。初めての男の家元で、初めて息子もできたので、今度は世襲というイメージもあったかもしれません。もし、両親の10年間の離婚がなかったら、そのまましっかり二世教育をされていたかもしれません」
池畑さんがお父様と話し合われたのは、お父様が亡くなる前のこと。70歳を過ぎた父と、50歳前の息子の落ち着いた話し合いでした。
「不仲ではなかったですよ。吉村雄秀の名で私も国立劇場で舞っていましたし。ただ、家元を継ぐということは、弟子達を守るという大きな仕事があります。そうなると、池畑慎之介とピーターの仕事はセーブしなくてはならなくなります。それが20歳の時のことなら考えたかもしれませんが、ここまで責任を持ってやってきた仕事を手放すわけにはいかない。This my lifeでしょう」
自分の人生は、唯一無二。それはお父様もそうだったと言います。
「どう生きるかは自己責任です。父も、拍手をもらってなりわってきた人。舞の天才的な素養を持って、6歳からパフォーマーとしてやってきた人。だから、その人が持っているものは唯一だとどこかでわかっていたのではないでしょうか…」
池畑さんの生き方はとても明解で前向きです。
「人生は岐路がいっぱいあって、人に言われて選んだら、失敗した時、人を恨んでしまう。私は言い訳をしたくない。A型だから後でグシュグシュ考えることはあるけれど、まいっか、と前を向きたい」
人としての潔さ。大切なものを学び取った人の強さ。池畑慎之介さんの一語一語にある真実は、人生に悩む多くの人の背中を押しそう。
「ブログに料理をアップしていたら『ちゃんとレシピを書いてください』って言う人がいるのよ。冗談じゃない! 自分でやってみて何度も失敗して、自分の味を見つけなくちゃ!世の中、甘過ぎ!」
人生論に通じる、なるほどの一言。別れ際の笑顔とお辞儀の美しさが、心に残りました。
▼撮影場所
福扇華(ふくおか)
福岡県が監修し立ち上げた、県の魅力を存分に愉しめるアンテナレストラン福扇華(ふくおか)。福岡県の伝統工芸が随所に飾られ、木の良い香りがします。お食事はもちろん、福岡の食材がふんだんに使われています。個室も色々あり、大きな会合にも対応する大きな部屋もあります。
〒102-0083
東京都千代田区麹町1丁目12番1 住友不動産ふくおか半蔵門ビル1階
(東京メトロ半蔵門線「半蔵門」駅3a・4出口より徒歩3分)
tel:03-3288-2170
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 ヒダキトモコ
フォトグラファー。日本写真家協会(JPS)、日本舞台写真家協会(JSPS)会員。
米国で幼少期を過ごす。慶應義塾大学法学部卒業。人物写真とステージフォトを中心に撮影。ジャケット写真、雑誌の表紙・グラビア、各種舞台・音楽祭のオフィシャル・フォトグラファー。官公庁や経済界の撮影も多数。
https://hidaki.weebly.com