ハイテンションなサックス奏者だと認識していたら、辻本さんの情感あふれるクラリネットアルバムは、別人のように聴こえるかもしれません。
もともと、辻本さんが初めて手に取った楽器は、クラリネットだったのです。
「中学のとき、何か頑張るものを探していて。音楽経験もないのに、なんとなく覗いたのが吹奏楽部でした。しかも仮入部の最後の方の時期で、みんなより1ヶ月遅れ。そこで最初に手渡されたのがクラリネットだったんです。ピアノも習ったことがない僕は激烈劣等生。先輩がつきっきりで1ヶ月教えてくれました。初心者の1ヶ月遅れですから、同級生の中で一番吹けなかったんじゃないかな」
しかしそこから辻本さんの反復練習は始まります。
「朝練は6時から7時くらい。夕方の練習は授業が終わって、3時半くらいから6時とか7時まで。それで学校の楽器を持って帰れないので、自宅では運指を覚えるエアー練習をして、楽譜の読み方を覚えて。今のようにインターネットで調べればなんでも出てくるという時代ではなかったので、情報を集めるのにも苦労しながら。練習は、とにかく量をやりました」
その甲斐あって、あっという間に上達した辻本さん。中学の終わりにはすでにコンクールで賞を取るほどに。中高と吹奏楽部に所属し、高校3年のときにソリストとして出場した「YAMAHA管カラフェスタ2006全国大会」で演奏グランプリとオーディエンス賞のW受賞しました。
「そういうふうにクラリネットには自信がついたので、大学でもクラリネットしか吹かないつもりだったんです。でもビッグバンドの先輩に『多分、演奏を見たらサックスを吹きたくなると思うけどな』と言われて。それでも、クラリネット…と思っていましたが、先輩が吹いているのを見て1日で『あの、サックス吹いてみていいですか』と(笑)」
クラリネット一筋できた辻本さんは、そこから並行してサックスを手にするようになりました。独学である程度は演奏できたサックスですが「極める」本性が現れたようで、疑問を感じはじめます。
「クラリネットとサックス。自分の演奏に、二つの楽器の違うところと似ているところが混在しているんですね。クラリネットと似ている上澄みのところをサックスでやっているような気がして。そこで部として(バンド全体として)レッスンをお願いしていたトロンボーン奏者の大迫明先生に『一度ちゃんとサックスの先生についてみては?』と提案してもらったのもあり、サックスの先生につくことにしました」
辻本さんがついた先生は、大阪在住のサックス奏者、小林充さん。
「飄々淡々とした方でしたが、僕が吹いてみるとすぐに『もしかしてクラリネットやってた?』と言われました。そのいいところと悪いところと両方ある、と。まずサックスの奏法の基本形を入れた方がいいと、レッスンしてもらいました。そして奏法の部分をしっかり修正してもらい、そこから先は、ジャズの理論も本格的に教えてもらったのでした」。