大人になって、音楽が仕事になっていっても、さまざまな音楽との出会いが人との出会いも連れてきました。
「本牧にItarian gardenという店があって、そこで月1回、クラブ的なイベントをやっていたんですね。どんな国のどんな時代の音楽でも、聴き方のセンスひとつでフレッシュに響くという提案。そこらへんの解釈で所謂、渋谷系の人たちとのマッチングも良くて、わざわざ本牧まで来てくれる人がいたしね。海外のレア盤は勿論、ピチカートファイブ、オリジナル・ラヴ、ラヴ・タンバリンズの曲でも盛り上がっていましたけど、そのイベントに出てた地元のアフロプレジデントってバンドはインコグニートのブルーイに絶賛されたぐらい音楽センスが高かった」
地元を大事にしながらも、海外にも気楽に出かけていました。
「こんな音楽がアジアの何処そこで流行っている、と訊いたら行ってみたり。海外ではだいたい、タクシーでかかってる曲が面白いんですよ。インドネシアのタクシーでは、ダンドゥットという大衆音楽がかかっていたり。タイのイサン地方のモーラムって音楽も良かった。僕は収集癖はないんですが、そうやって買ってきたレコードやCDなどは今も実家にはあるかも。部屋ひとつが僕のガラクタで埋まってますよ」
おそらくどこまでがガラクタでどこまでが宝物なのかわからない状態なのでは。クラシックカー、バイク、古着など、凝ったものは一つずつが人生の一部分になっていきました。
「古着は10代の頃ですよ。L.A.で買い漁ったのを山下公園や代々木公園なんかでだいぶ売りました。ファッションにこだわるのは、例外もあるけど、ファッションのセンスがいい人は音のセンスもいい。細かいニュアンスの集大成だから、そういう意識をもった者同士で解り合える」
ただ飲んで騒いでは、できない人柄。
「お酒を飲めないんです。だから遊べないコンプレックスを車遊びに込めていて。今は昭和45年の日産ブルーバードでレースに出ています。またレースとは別に今年の秋は数年ぶりに『ラフェスタ・ミレミリア』ってクラシックカー・ラリーにも参加しようかと」
スタイリッシュなクラシックカーにも負けない存在感の横山さん。香りの話も、自然と運転席でのことに。
「20代の頃はまだ、車の芳香剤ってトイレの芳香剤みたいな匂いだったでしょ(笑)。だから、アメリカで買ってきた石鹸とか、サーフボードに塗るココナッツ系の香りのワックスを後部座席の後ろに置いていたりしましたね。太陽が当たるとちょうどいい香りになるんです。そのぐらいの香り方がちょうどいい」
繊細な感性は香りの使い方にも表れているよう。そんな横山さんがボーカルを務めるクレイジーケンバンドには名曲がたくさんありますが『タオル』には「あのコが差し出すタオル」の甘い柔軟剤の香りが登場します。
「あの曲は珍しくホントの話。本牧市民プールでの、20代の頃の思い出です。生々しくならないようにファンタジーぽくしていますが」
「甘い」柔軟剤の香り、という歌詞は2コーラス目には「ヤバい」になっています。真夏のプール、誰もが思い浮かべられるキュンとした想いを描く曲調もどこか夢見がち。まさに詞が香りを呼び覚まします。