曲にリアルな体験を盛り込むことはほぼないという横山さん。ではどういうふうに歌を作られているのでしょう。
「たとえば『タイガー&ドラゴン』は、メロディと詞が一緒に出てきました。ドライブしながら、景色に押し出されるように出てきた歌です。題材でどう作ろうか、というのではなく、聴く人がどういうふうにでも解釈できるようにと思っていますね。エッセイを連載していたときには、その文にメロディが付いて2曲できました。『ヨコスカン・ショック』はそのうちの1曲です」
旅に触発された曲も数多いようです。
「海外へ旅行に行くと、お土産のように曲ができますよ。ただ、ここ2年は行けなかったですから、妄想の世界モードだったかな。僕は職業作家になりたいくせに狙いで曲を作ったりができない。この時期はこういう作風だったんだな、と後になって思うだけで」
コンサートが思うようにできなかったここ2年ですが、歌作りとレコーディングは進んでいました。
「コロナ禍で今以上に外出が厳しい時はレコーディングをしていたので、意外とダメージはなかったです。ほぼ毎年、アルバムを出してるから曲は増える一方で、まだ手をつけていない曲もたくさんあるので飽和状態です。にも関わらず、今年の夏あたりにまたアルバム出そうと思ってるから秋のツアーの選曲は、てんやわんやですね」
世の中がどうあれ、周囲の人々を大事にし、グッとくるものを求め続けている人の輝きは褪せないものです。そして、ファンはその姿を心待ちにしていることでしょう。
「マニアックなものをマニアックに出すんじゃなくて、ポップスに昇華させたいという思いは、ずっとありますね」
自らが信じ、愛を感じたものをさらりと伝える。聴く人たちがそれを自分の思い出や今と重ねる。横山剣さんの歌は大人のための、人生のドライブ・ミュージックなのです。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
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