映像に対してどんな曲が求められているのか。サウンドトラックを作曲する打ち合わせは、そのドラマのコンセプトをどう解釈するかから始まるようです。
2008年の大河ドラマ『篤姫』のサウンドトラックは、CDとしても大ヒットになりました。
「大河ドラマは1年間放送されますから、楽曲数もかなりの数になります。打ち合わせは1回3時間くらいかけて、このシーンのどういう曲なのかという話をしました。例えば、せつない曲、と言っても、その場面に2人がいて、別れゆこうとする人と一緒にいたい人がいた場合、どちらの目線で書くのかで曲は変わります。男性にフォーカスされて、遠くに女性が映っていた場合、それは男性が彼女を見ている視線なのか、それとも彼女の面影なのか。そういう微妙な違いもあるんです」
NHKのドラマ『聖女』を手がけた時は、こんなことがあったとか。
「最初に台本を読んだ時は、昼メロみたいな内容だなと思ったんですよ。で、プロデューサーに話してみたら『違うんです。これは聖女の話なんですよ、吉俣さん』と言われて。王道だから、音楽で寄り道もさせたい。耳でも引くくらい攻めてみましょうということになって。プロデューサーが堂々とコンセプトをもっていたんです。僕はそんなふうに吉俣良の曲が好きだから、一緒にがっつり組みたいんだという人と仕事をしたい。台本からでも参加したいと思っています」
自分の曲を愛してくれているかどうかは、使い方でわかると言います。
「もう63歳だから。この歳まで、ドラマや映画に、さまざまな曲を提供してきました。あと何年できるかなという気持ちもあるし、だからこそ、本当に僕の曲を大事に使ってくれる人とやりたいなと思うんです。作った曲を粗雑に扱われると、細胞が傷むんですよね」
1曲1曲に、吉俣さんは全身全霊で打ち込んでいるのです。