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今かぐわしき人々 第137回
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    第137回:立木義浩さん(写真家)

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 徳島で明治時代に創業した写真館に生まれ、1958年からフォトグラファーとして活躍し始めた立木義浩さん。その生家は1980年放送のNHKの連ドラ『なっちゃんの写真館』となり、お母様の立木香都子さんがヒロインのモデルとなりました。立木さんの被写体は著名人から一般人、仏像までさまざまですが、生き生きとその被写体のエネルギーと呼応して浮かび上がらせる写真は、色褪せることがありません。生家のこと、最近再びの挑戦となった東寺の仏像のこと、そしてこれから撮りたいものについて、お話は尽きません。

《1》立木写真館に生まれ育って

 大柄で役者さんのような恵まれたルックス。カメラをもつとあっという間にその場を覆うオーラ。立木義浩さんは、いったいいつからフォトグラファーになろうと思ったのでしょうか。
 1980年に放送されたNHK朝のテレビ小説『なっちゃんの写真館』は、徳島県徳島市にある生家の立木写真館がモデルになっています。
 だから、ヒロインの夏子は立木さんのお母様がモデル。きっかけは、立木さんがトーク番組でお母様を語ったことからでした。

「同じNHKの番組で『母を語る』っていうのがあってね。4人いるゲストの1人だったんだけど、僕以外の人は全員、もう母親が亡くなっていた。亡くなった母に関して、美しい思い出を語っておられたんです。亡くなってる人のことって、どんなことがあっても美しくいい話として語れるじゃないですか。それで、最後に僕。『現存してます』と、おちゃらけて、面白おかしく語ったんです。実際、母は営業写真館の先駆けの仕事をしていて、日本中に『花嫁写真の撮り方』なんていうことをレクチャーして回っているような人だったから。若い頃は僕が地方へロケに行くと、どこへ行っても『あ、あのお母様の』と言われるほどだったんだ」

 立木さんの話を聞いていたNHKのスタッフはその日のうちに連絡してきました。

「ドラマ班の人たちが来て『御母堂様のお話ですが』なんて言われてね。母親に『話を聞きたいらしいよ』と電話したら、スタッフはもう1週間後に徳島に行って、それですっかり話がまとまっていました。僕の人生の失点1だね。ドラマ自体、ほとんど見なかったけど、たまたま見た日に僕を演じてる役者が出ていていね。『青春は残酷だ!』なんて思ってもないセリフを叫んでて驚いた。シナリオ・ライターは取材を下敷きにして物語をうんと膨らます仕事だとわかった。本当の僕はバレーボールの練習をしてお好み焼き食って映画館へ行って、楽しい青春を送ってたんだから」

立木義浩さん

 両親が写真を撮る仕事をしているのを、物心ついた時から見ていた立木さん。

「戦前、うちの2階にスタジオがあって、3階に暗室がありました。幼稚園の頃だと思うけど、父親が暗室に入れてくれて、白い紙を水の中に入れてゆすると、ふわーっと像が現れて来るのを僕に見せたんです。お父さん、すごいと思ったね」

 お父様は、長野県上田市の出身。寡黙な方だったそうです。
あまり喋らないけど、子供の気持を尊重する人だったのは、野球の帽子を買うのに5軒も付き合ってくれた。悪いことすると本気で殴るから子供心に手加減しなよと思ったこともある。戦後、空襲でうちが焼けた時、バラックの小屋を建てたんです。それで屋根に使う杉の皮を、親父と2日間、山に入って運び出しました。4つ上の兄貴と9つ下の弟がいたけど、僕が一番、使い勝手が良かったのかな。呼ばれたらすぐついていったしね。今になって、親父とはそういうことをしといてよかったと思うよ」

 立木さんが少し大きくなると、お父様は暗い場所で使う発光器の上に少量盛り、発火石で点火する閃光粉のマグネシウムと硝酸カリウムを調合する作業を手伝わせました。

「それでも子どもだから、撮る手伝いはできないからね。薬を調合する作業。『乱暴にすると爆発するぞ』なんて言われてね。広い部屋でも柔らかい光が充分に回るので出張撮影にも使っていたらしい。大きな音が出るから通称・ボン炊きと言っていました」

 仕事に細心の注意を払うこと。集中力を養うこと。ひょっとしたら、立木さんも将来カメラを持つだろうと、お父様はそういうことを教えたかったのかもしれません。

 しかし寂しいことですが、2020年、コロナ禍の中で、写真館は閉館してしまいました。

「仕方がないね。生あるものは必ず死に、栄えるものはいつか滅びるって昔からいうでしょ。今流行のSDGsとはいかなかった」。

立木義浩さん

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