生まれは新潟県。30数年前、上京した清水さんは、東京で夜間の大学に通っていました。
「もともと、バンドをやったりしていましたから、人前に出るのは好きだったんですが。上京して、バイトしながら夜間の大学に通っていると、思い描いたようなキャンパス・ライフもなくてね。
このままふわふわ大学に通ってても仕方ないかなと思い始めて、とりあえず車の免許を取ろうと、一旦、新潟へ帰ったんです。教習所の隣にジャスコがあって、休憩時間に立ち読みをしていたら『欽ちゃん劇団』のオーディションを見つけたんです」
初めてのオーディション。東京に戻った清水さんは、普段着のまま、それを受けに行くことに。
「便所スリッパみたいなのを履いて行っちゃったんですよ。『ダンスからです』と言われて、踊っていたら途中でそのスリッパが脱げて。ああ、もうダメだなあと思っていたら、後日、合格しました、という通知をもらって驚きました」
合格者は3ヶ月、週6日に及ぶレッスンを受けることが入団の条件でした。
「コント、演技、タップダンス。週6日、3ヶ月で、レッスン料を5万円払うようにとのことでした。今思えばすごく安いですよ。きっと一流の先生方が教えてくださるわけですから。でも、当時何も知らない僕は『合格したのにお金を払うなんておかしくないか』と、浅はかに考えてしまって。それで、せっかく合格したのに、行かなかったんです」
ただそこで、清水さんには「オーディションに受かった」という成功体験が残ったのでした。
「オーディションって、受ければ受かるんじゃないか、と思ったんですね。もともと、映像にも出てみたかったので、今度はオーディション雑誌を買って、映像もやっているプロダクションを探しました。’93年頃かな。東映Vシネマの全盛期で、脇役の脇役みたいな、不良少年の役くらいはいっぱいあったんです。そこで、映像で演じるスキルを磨いていきました」
演技の修行の場は、役者として生きる修行の場でもあったようです。
「当時はバブルの名残もあり、Vシネマでも、今のちょっとした映画くらいの予算があったんです。当時、アクションの身振り手振りを教えていた殺陣師の人は大忙しで、その人が自分でキャスティングできる枠もありました。ある朝、相手役の手下に、初めて顔を見る男性がいたんですね。『事務所はどこ』と聞いたら『昨日、殺陣師の人とフリーマーケットで会っておいでと言われた』と。そうしたら、午後にはその人がバイクで引きずられるシーンをやってたんです! むちゃくちゃでしょう(笑)。僕もバク転やバク宙ができないと仕事がないからと、コンクリートの上で飛んだり跳ねたりしていましたよ」
おおらかな時代といえば、おおらかな時代でもあります。
「当時の現場の人たちは今も頑張っていますよ。〜君、と呼んでいた人が、日本有数のアクション監督になっていたりして」
周囲とともに大きくなっていく。清水さんの話には、そんな幸せな仕事の形が見えてきます。
‘97年にはNHK大河『毛利元就』で、元就の孫・吉川元資役に抜擢された清水さん。その後、北野武監督の映画『座頭市』にも出演しています。
そしていよいよ2022年9月には『鎌倉殿の13人』に、長沼宗政役で登場します。
「宗政は、栃木の小山三兄弟の次男で、長沼という土地を与えられた男。鎌倉幕府が開かれた後、権力争いと、上層への告げ口、告げ口で粛清の嵐になっていきました。そんななかで、長沼宗政は鎌倉一の暴言王と言われた男だったようです。例えば、鎌倉殿である源実朝に『あなたは和歌ばかりに勤しんで、御家人を蔑ろにしている』と言い放ったり。プロデューサーに『好き勝手言っちゃってください』と言われていますので、登場のシーンはかなり荒々しくなるかもしれません。もしかしたら、ニトリのCMで知った人は気づかないかもしれない髭もじゃのルックスです」
さてさて、清水さん演じる長沼宗政は、どんな荒武者ぶりを見せてくれるのか。3週目から登場だそうですから、目を凝らして見ていたいものです。