名脇役、と言って過言ではない清水さんですが、自身のYouTubeでは、自ら監督主演する映像を撮っていたりします。これが本当に面白くて、存在感も素晴らしい。なんのドラマや映画で主演をしても全く不思議ではないのですが、その辺りはとても自然な考えがあるようです。
「あるプロデューサーに『主役やりたいですか?ワキの方がおもしろくないですか』と言われたことがあります。確かに主役のプレッシャーはハンパないし、セリフも多いし、つまり、描き込まれているから、動きづらい部分はありますよね。脇役は、描かれていない部分を自分で埋めていける面白さもあります。振り幅の大きいことを試したりくっつけたりできるんですよね」
森山未來さんが主演した映画『アンダードッグ』で演じたのは、なんとタイ人のボクサー役。
「タイ人ボクサーの役に声を掛けてくれたのは『全裸監督』の武正晴監督でした。武さんから『キャスティング会議で清水さんの名前を出しました』とメールをもらっていたんです。まさか日本語が理解できるタイ人ボクサーだったとは。僕は20代中盤から渡嘉敷ジムに通ってて、武さんが助監督だった時代にボクシング映画に出たことがあるんです。これは出るしかないと、自腹でタイへ行って、向こうのジムに入門しました」
本気の役作りはかなりの命懸け。
「微笑みの国の人たちは、微笑みで忍び寄ってきて、地獄を連れてくる(笑)。この人たちには時間の概念がないのかと驚きました。普通、ボクシングは3分やって1分休むとかなんですね。3分という時間を体に染み込ませる。ところが、電光掲示板は10分✖︎4!! 『オレ、47歳なんだよ』と言ったら相手のボクサーに『オレだって35歳だよ』と。おいおい、若いよ… 」
そして、タイ人ボクサーを演じ切った清水さんでしたが。
「オレって気づいてもらえなかったかも。エゴサーチしても出てこないもん(苦笑)」。
21日から始まる舞台『エル・スール』では、風呂焚きのトモ、という役を演じます。物語の時代は昭和30年代の博多。いろんな人が、いろんなふうに生きていた時代の話です。
「僕が演じるのは、銭湯の薪をくべる風呂焚きの男。低所得者層で、主人公の小5の男の子に悪いことばかり教えるわ、お金まで借りようとするわ、という長屋の住人です。劇団棧敷童子の東憲司さんの脚本が本当に面白くて、きらきら輝くセリフがいっぱいあるんです。初演は2009年で、4回目の再々々演。もう一回やってくれというリクエストが絶えない作品です」
きらきら輝くセリフは、例えばこんな。
「無味無臭のコンクリートの時代。つまらないなあ」。
清水さんだけではなく、コロナ禍で世界中の都市の人々が、そんなふうに呟いたかもしれません。
「リモートだなんだって、人に会いづらい世の中になりましたもんね。劇場だけじゃない、稽古も打ち合わせも、人と人が会ってこそ。この舞台は、下水処理もままならない時代のごちゃ混ぜの匂い、その匂いすら伝わってくるようなお芝居です。もう一つ、演劇界のレジェンドである、たかお鷹さんのお芝居もぜひ見てもらいたい。こういう人と同じ空気を吸ってたんだと、素晴らしい体験になりますから」
人を演じ、人にまみれる。それこそが、演劇の魅力なのでしょう。
清水伸さんの醸し出す「人間」の匂いを感じ取りに、劇場へ足を運びたいものです。
公式ホームページ
http://www.jfct.co.jp/a_shimizu.html
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com