現地での芸能の仕事は、オーディションから始まりました。少しずつ、それで役を得ていった大久保さん。
「ほとんどが日本人の役でした。でも、もともと脚本では台湾人の役を、私がやることになって日本人とのハーフの役にしてもらえたりしたこともありました」
いざ始めてみると、台湾の制作現場は、日本とずいぶん違っていたようです。
「ひと言で言うと、ドラマでも映画でも、台湾の現場は柔軟。日本ではいただいた脚本で、その場でセリフを監督以外の人が変更することはほとんどないでしょう。ところが台湾では、現場で役者たちが意見を言って、セリフが変わるのは当たり前なんです。舞台の場合は、稽古現場でシーンが丸ごと変わってしまうこともあります。だから役者は自分の意見を持っていないとダメだし、監督もそれに耳を傾ける人が多いですね」
ただ、そういう風に議論しながら作品を作り上げるやり方は、時間がかかります。
「日本では舞台の稽古はだいたい1ヶ月ですよね。でも台湾は、スタッフもキャストも3ヶ月前から集まります。現場で監督が過程を確認しながら、みんなが納得して進んでいく」
ひとつずつ手探りな日々。でも大久保さんは、最初に出演したテレビドラマで過去に傷をもつ日本人女性を演じ、台湾のエミー賞と言われる「金鐘奨」で助演女優賞を獲得したのです。
「レッドカーペットを歩くことができたのは本当にありがたいことでした。ものすごくたくさんの人たちに祝福されて、ああ、この賞がきっかけで自分の女優人生が始まるのかな、と思いました。ところが、そんなに甘くなかったんです」
賞をとった直後は広告の仕事などは来たものの、演じる仕事が来なかったのだそう。でもそれから2年後、台湾で初めて外国人として連続ドラマのヒロインに抜擢されたのです。
「その連ドラ『幸福不二家』は、台湾で別々に知り合った4人が『日本人家族』だと偽って日系の居酒屋を開くというコメディでした。1話1時間半で14話ありますから、5ヶ月がかりで撮りました。ロケ以外はお借りした居酒屋の閉店後を借りての撮影でしたから、昼間から明け方まで、ほとんど寝ないで撮っていたことになります。私には大抜擢ですから、大変とか辛いとかいう気持ちはなく、気合いで走り切った感じ。終わった後、しばらく休みましたが」。