女形と言っても、若い女性の役から老女まで様々ですが、右若さんは個性的な役柄もこなす演技派。
これまでにご自身でも印象に残っている役はたくさんあるようです。
「坂東玉三郎さんの『天守物語』や『海神別荘』で、腰元や侍女の役をいただいたのは本当に幸せでした。『新三国志〜孔明篇』で南方国の女四天王の1人にしていただけたのも、ありがたかったですね。華やかな衣装で目立つ場所に座り、踊りも踊ることができました。今の團十郎さんにも海老蔵さん時代から、ずいぶんいろいろ教えていただきました」
時にはまさかの事態が起こるのも、生の舞台ならでは。
「2015年、当時の海老蔵さんの『源氏物語』で、源内侍という好色なおばあさんの役をやったんですね。この、おばあさんは噂好きで、光源氏の愛人である六条御息所のところへ行って『葵上(光源氏の正妻)に子どもができた』と言いに行く役なんです。新作で、台本をもらったのは稽古当日。あらひと言かしらと、次のページをめくったらすごい台詞量で、あわててカラオケの歌広場の一室にこもって(笑)、3時間で必死に憶えました」
また別の役では、直接海老蔵さんと相対する場面も。
「『嫐(うわなり)』という演目で乳母の役をいただいたのです。これは、お殿様が愛人を連れ込んで、そこへ奥さんが戻ってきてしまうという場面がありました。お殿様役の海老蔵さんに慌てて奥さんが戻ってきたと伝えるところで緊張してしまい海老蔵さんの台詞を待たずに喋ってしまって。『いくらあわてる役でも、私の話を聞いてからしゃべってね』と言われました」
教えてもらったことを一言一句忘れないのも、右若さんの素直な人柄でしょう。何かと新しいことに挑戦させてもらえるのも、そんな人柄が認められてのこと。
「海老蔵さんと寺島しのぶさんの六本木歌舞伎『座頭市』では、芸者衆3人のうちの1人にしていただきました。三池崇史監督が演出をされていたのですが、突然『幕の外でラップをやってくれませんか』とおっしゃって。どう面白くするか、芸者衆で話しあって。大阪のフェスティバルホール公演では、満席のお客様たちをラップのリズムに乗せることができて、気持ちが良かったですね」
昨年12月の團十郎襲名公演では、昼夜ともに出演し、夜の部で女形として口上にも並ばれました。
「すごいところに並ばせてもらってるんだなと、本当に気持ちが引き締まりました。一生に一度かもしれませんね。コロナ禍もあって、生き方や自分の居場所を改めて見る機会を得ました。今の仕事がなかったら、果たして何をしていたのか。役者になっていたとしても女形はできない。女形に憧れて舞台を志したので、今の自分ではない自分が想像できません。そして、私は裏ではいろんな方の化粧や衣装のお手伝いもします。表も楽しく、裏も楽しく、を、心がけているんです」
でもここまで来たら、ちょっと現代劇での右若さんも見てみたい気がします。