清水さんが本格的にヴァイオリン奏者の道を目指したのは、なんと中3になった秋だったと言います。
「小さいころ歌ばかり歌っていた自分を見た母が、ヴァイオリン教室へ連れて行ってくれたものの、僕はシンガーソングライターになりたかったんです。中学生の頃はTMネットワークやB’zが大好きで。ずっとシンセサイザーが欲しくて、高校の合格祝いにYAMAHAのSY55というのを伯父に買ってもらったんです。これがシーケンサーもついていて、自分で曲を作れてしまう。学校の先生の歌をアレンジしてあげたりしていましたね。」
そんな清水さんを変えたのは、中3の時に観にいったイタリアの『イ・ムジチ合奏団』のコンサートでした。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、チェンバロという編成で、日本でも大人気の合奏団です。
「もちろん、彼らの演奏で有名になったヴィヴァルディの『四季』もよかったんですが、最後にやった『赤とんぼ』に感動してしまったんです。なかでもフェデリコ・アゴスティーニという人のヴァイオリンに感動して本格的に学びたいと思い、中学3年生の11月からヴァイオリン奏者の道を進むことにしました。」
一方の西谷さんがチェロを手にしたのは、5歳のとき。
「僕は父親の赴任地の長野県松本市で生まれたのですが、土地柄、スズキメソードという音楽教室の本場で、周囲にヴァイオリンをやっている子どもがたくさんいたんです。家族には音楽家はいませんでした。それで、周囲の友達に影響されて、教室を見にいったら、チェロがあって『こっちがいい』と。多分、子どもたちが弾いている小さなヴァイオリンのキーキーした音が好きじゃなかったのかも。チェロの音色が低くてあったかいな、と感じた記憶があります。それに座って弾けるので『おじいちゃんになっても弾けるね』と言ったそうです(笑)」
ところが、別々の場所で弾き始めた2人をつなぐ出来事が最近あったのです。
現在は東京交響楽団を退団して様々な音楽活動をしている西谷さんは、愛知県立藝術大学で教鞭を取っていますが、なんと清水さんがその演奏に感動したというイ・ムジチ合奏団のフェデリコさんが、今、同じく愛知県立藝術大学で教えているというのです。
「しかも隣の部屋で!(笑) フェデリコさんは、アメリカ留学中に出会って習った事もあったのですが、奥様が日本人で、今、愛知におられるのです。不思議な縁ですよね」
音楽が結ぶ縁の面白さに驚かされます。フェデリコさんの音が、清水さんと西谷さんのそれぞれの中に流れていたというのです。