柔らかい関西弁で時々ユーモアを交えて話してくださる千壽さん。上方言葉は大事にしています。
「江戸と上方。お芝居で一番違うのはやはり言葉ですよね。上方弁でぽんぽんやりとりするようなお芝居の面白さはあると思います。私は標準語を喋ると人格が変わってしまうような気がして。
上方歌舞伎は、義太夫から来ているイントネーションです。例えば『あほ』という言葉にしても、『あほ』と叱責するときにも使いますが『あんた、あほやなあ』と柔らかく言えば、愛情表現にもなる。江戸の『ばか』は、とんがっていてちょっと攻撃的でしょう。ただ『このバカっこ』というと、愛情表現なのかな」
大事にしているのは、その柔らかさ。愛情の奥深い表現。
「上方の歌舞伎役者としての香り、を大事にしたいと思っているんです。言葉だけじゃなく、黙っていても醸し出す上方の香りが出せたらなと。極端な話し江戸の芝居に出ていても、体からにじみ出てくる上方の香りをもっていたい。師匠は『それはまず関西に住んでいてこそや』とおっしゃっていました。」
目指すところは、2年前に亡くなった師匠の秀太郎さん。
「もう教えを乞うにも叶わないですが。教えていただいた全てを体現していきたい。上方の言葉で言う、ぼんじゃり、はんなり。そこにいるだけで、そう思ってもらえるような」
「ぼんじゃり」はどんな風情なのでしょう。ふとそこにぽっと花が咲いているような、愛くるしさ。花を手にとるようにこの手にしたい風情。その柔らかさを探しに、舞台へ出かけてみたくなります。