こうして1892年製のベヒシュタインは、亀井さんの家へ。
「東京のマンションにいたら置けなかった。ピアノを置くことができるスペースがあったというのも縁だし。ベヒシュタインは、ドビュッシーがこよなく愛したピアノで『私はベヒシュタインでないと作曲しない』とまで言ったそうなんです。1892年といえば、まだドビュッシーは生きていたので、ひょっとしたら… なんて思うと、またワクワク。もちろん、昔のままでなく、リストアしてありますけれど。なんとも落ち着く良い香りがするんです。良い楽器は総じて、良い香りがしますね。蓋を全開して、頭を突っ込んで鳴らしてみると、オーケストラのような倍音の響きがあるし」
ピアノに惚れ込んでいる亀井さんですが、ピアノも亀井さんに良いインスピレーションをくれている様子。
「曲を作るにもダイナミックさが出てきますね。何曲も作りました。クラシックピアノをもう一回ちゃんと習おうかという気持ちもあります。まだまだ僕の腕では申し訳ない、と思っちゃうんです」
YONGEN時代に打ち込みでレコーディングした『Science of farewell』のような曲も、ピアノで弾き語ることで、また違う味わいに。
「10月21日のビルボード大阪では、チェロ、バイオリン、エレキギターのサポートも入れてやるのですが、ピアノでの弾き語りも入れようと思っています」
チェロは清水・西谷の西谷牧人さんが登場、バイオリンに林周雅、エレキギターに弓木英梨乃というスペシャルメンバーです。
「2027年は、フェスティバルホールで歌いますよ」
突然、スケールの大きな話が飛び出しました。心を決めたのは、昨年9月のこと。
「高橋真梨子さんのコンサートのプロデュースもしているのですが、大阪フェスティバルホールでのコンサートの客席で、ふと、あのステージに自分が立てたら、と、空想してしまったんです」
打ち上げの席で、亀井さんは「僕がこのホールでやらせてもらうにはどうしたらいい」と、なんとホールの支配人に訴えました。
「『やりたいんです。仮押さえしていただけないですか』と。その僕の勢いに、みんなが応援すると言ってくれました。日本にはたくさんのホールがあるけれど、天井の高いところがやっぱりいい。僕は18年間、イギリスに住んだので、ヨーロッパの石造りの建築物の天井の高いところで音楽が鳴り響く感覚が好きなんです。フェスティバルホールはまさに『天から音が舞い降りる感じ』ですよ。そう、僕はまさにそれを目指したいんです」
NASA、CANCAMAY、YONGEN…と、若い頃からバンドやユニットで歌い続けてきた亀井さんですが、若い頃よりも今の声が好きだと言います。
「若いときのレコードやCDを聴くと、喉で歌っていますね。カラダが響いてない。今はだいぶカラダを鳴らせるし、お客様との間の空気を振るわせることができるようになってきました」
カラダというのは、天が与えた最高の楽器。生きてきた時間のひとつひとつも、その人の声になるのかもしれません。多くのアーティスト、演奏家を育て、人に優しい亀井さんの声は、だからいっそう、深く高く鳴り響くのでしょう。
Eikagen CD:
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Billboard Osaka :
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=14425&shop=2
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com