ひと言に舞台と言っても、大谷亮介さんのフィールドはまた多彩です。
1997年には劇団壱組印を立ち上げ、三軒茶屋婦人会にも参加して女形にもチャレンジ。翻訳物からオリジナルにまでありとあらゆる舞台に引っ張りだこという側、今年は久しぶりにキムラ緑子さんとの芝居仕立てのコンサート『Dolly&Tanny』も復活させました。
その根底にあるのは、演劇の力を信じる気持ちです。
「演劇っていうものが、もうちょっと広く、みんなに行き渡るといいなあと思っているんです。みんなが役者になる必要はないんだけどね。例えば、海外にはずいぶん前から『演劇療法』っていうのがあるんです。高齢者や障害のある子どもたちを演劇で支えていく。日本でも岡山の方で青年団の方たちがそういうことをやっているというのを知って、僕も依頼されてワークショップをやりました」
大谷さんのワークショップは、役柄を決め、椅子を置いて、そこから自由に動いてもらうというもの。
「椅子を4つ置いてね。あなたはこの役。あなたはこういう役、と話したら、あっという間に、みんな楽しそうに動き始めました。15歳から25歳くらいまでの人が集まったんだけれど、みんな頭がいいと思いました。児童劇とか、朗読劇とか、古典とか分け隔てなく楽しそうに演じていました。もちろん評価したりすることはまったくしませんでした。」
そういうことをやってみるのは、大谷さん自身が「発達障害」と病名をつけて世間から爪弾きにされる人を無くしたいという思いがあるから。
「昔はさ、そういう病名なかったでしょ。落ち着きのない子ども、だった。僕だってそうですよ。ある形にはめるためにそこに属せない人はしんどくなる。演劇はみんながハマれる場所が必ずどこかにある。だからまた続けていきたいです。」
一人ひとりが自分を解放する場所として、演劇にはまだまだ可能性があるのかもしれません。演劇というものの懐の広さを信じ、愛している大谷さんだからこそ、演劇にまた深く求められているに違いありません。
▽公式サイト「海をゆく者」
https://stage.parco.jp/program/seafarer2023
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com