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• スペシャルインタビュー「今、かぐわしき人々」
  第182回：及川栞さん（女子ホッケー日本代表、タカラベルモント所属）

《３》テンションを高めたい時には、バニラやココナッツの甘い香りを

　コロナ禍に開催された2021年の東京オリンピック。大井ホッケー競技場で行われた試合はすべて無観客でした。

「私たちは予選敗退してしまいました。競技場の前で、両親はタブレットで試合を見ていてくれました。両親、お世話になった人たちにパフォーマンスとして体現し、恩返しをしたい。目の前でベストパフォーマンスを見せたい！　それが今、パリオリンピックへの最大のモチベーションになっています」

　9月のアジア大会では優勝できなかったものの、この取材の１週間前にインドで開催されたアジアチャンピオンズトロフィーでは、銀メダルをとりました。

「決勝の対戦相手はインドでした。インドではホッケーは国技なんです。会場は満員。観客はものすごい声援で、しかもDJがずーっと音楽を流していて、チームメイトに指示を出す声も聞こえないくらいでした。ハーフタイムではみんな踊っていて、日本に点数が入っても歓声が上がる。選手のモチベーションを上げてくれる観客でしたね」

　また2024年も1月にインドでパリオリンピック出場を掛けた世界最終予選大会があります。

「ずっとカレーなのが大変で。岩手のようなお米じゃないし。だから、1月は日本食も持っていこうと思っています」

　代表監督は外国人。通訳はラクロス出身の人なので、戦術に関しての通訳に及川さんが出ていくこともあります。

「英語なんですが、ホッケーの専門用語があるので。ハーフタイムは息が切れながらも私が戦術が変わったときの通訳をしたり。戦術理解に誤解があると大変なので。一選手として理解するのは責任だし、１人でも不安があるといけないので、私がツールとなればいいかなと」

　ホッケーで全身を使い、戦術に通訳にと頭を使い。オンの状態を継続してフル回転の及川さんは、心身をオフにする時間を大切にしています。

「１人の時間をつくって、ヨガをしたりします。自分を落ち着け、頭に空白をつくるために。オンとオフの切り替えに香りを使いますね。テンションを高め、集中したいときはバニラ、ココナッツなどの甘い香りを。リラックスしたいときは、ラベンダーやレモングラスなどの爽やかな香りを。寝る時もシーツに振りかけて、いい匂い、おやすみ、と」。

《４》海外へ出ていく、次へ行く人を手助けしたい

　34歳。今のチームでは最年長という及川さんが担っているのは、一選手としてのパフォーマンスはもちろんのこと、若い選手たちにアドバイスしていくこと。

「外へ出てみないとわからない。世界で戦うには、世界に出なくては。海外に出て、人として成長できれば、一選手としても成長できますから。そういうことを若い選手たちには伝えていますし、サポートしていきたいと思っています」

　及川さんは2019年、2022年にもオーストラリアのクラブチームに期限付きで籍を置きました。まさに後進のために道をつくっているのです。

「次へ行く人を手助けしたい」

　それは及川さん自身が、ホッケーの未来をも愛しているということなのでしょう。ホッケーの女神のような彼女がパリでスティックを振る姿が、一瞬、そこに現れたような気がしました。

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取材・文　森　綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』（スター出版）。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』（マガジンハウス）など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影　萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』（ワニブックス）、北乃きい『Free』（講談社）など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com

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