研修期間にニュース原稿を読み始めると、教えてくれていたアナウンサーが驚きました。
「『君の読み方はNHKだな。(原稿の紙をめくるときの)ペーパーノイズの入り方までNHKだ。』と言われました。そういうもんだと思ってたんですけどね。実は中学の頃から、落語の番組を待つ間にやっていた歌謡番組や、NHK『ラジオ深夜便』が大好きだったんです。深夜3時台に『にっぽんの歌・こころの歌』というコーナーがあって、加賀美幸子さん、宮川泰夫さんといったアンカーが喋られていて。NHKを引退したシニア・アナウンサーが多いんですよね」
福島さんは中学2年生から月〜日曜で放送を録音し、そこでかかる曲目を一覧表にしていたそうです。
「みんなと同じ流行歌を聴いてたらダメなんじゃないか、といういわゆる中二病のようなものだったんでしょう。昭和40年ごろまでの音源が好きで、中古CDを集めるようになりました。『自分が聴かなかったら、この音楽は絶えてしまうんじゃないか』という使命感で聴いていたんです。大学時代は、老人会の慰問で、ウクレレ漫談をやって、そういう曲を歌ったりもしていましたね」
絶えてしまうものを救いたい、という気持ちがずっとあるのだそうです。
「絶えてしまう芸能を救いたい。それはもう、雅楽まで含めて。人間が受け継いでいくしかないものですからね。例えば、正倉院に収められている、奈良時代のハープのような楽器で箜篌(くご)というのがあるんです。そういうものにも興味があります。父親が建材屋なのですが、趣味で雅楽の会に入っていて。その影響もあるのかもしれません」。
大学で京都に出てくるまでは宮崎県に生まれ育った福島さん。
「建材屋でしたから、木の香りがいつもしていたし、風呂たきに木を燃やしたりしていた匂いも思い出します。仏間があって線香を立てていたし。昔の家の香りが全部ありましたね。そういう暮らしの香りも変わってしまうもので、もうなくなってしまうものなのかもしれません。居間にいれば居間の香りがしたし」。
なくなってしまうものには敏感な福島さん。
「何かいろんなものが時の流れに従って、無味無臭になっている気がしますね。それはAIの読むニュースのように。そんなにきれいにしなくてもいいのでは、と思うことはあります。見て分からない味覚と嗅覚をもっと大事にした方がいいと思う」
音声にも香りがあるのかもしれません。福島さんはそこまで想いを行き届かせられる人なのでしょう。