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    第198回:松尾貴史さん(俳優、コラムニスト)

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《2》何かを美味しいと思うのは、味の均衡の上にある香りの力が大きい

 般°若のカレーはスパイス・カレー。いわゆる、何日も煮込むというような洋食系のカレーではありません。

「『カレーは一晩寝かしたら上手くなる』という人がいますが、それは洋食系のカレーの話。うちのカレーはスパイスカレーですから、オリジナル・スパイスを使ってるカレーは、時間が経つと化学変化が起こって、香りが損なわれるんです。香りがへたる、という言い方をしますが。だから、直前に調合するのがスパイスカレーの王道。香りが新鮮なうちに食べてもらいたい。だからカレーとひと言で言っても種類によって全然違いますね。カレーはみんな違って、みんないい、と思うんです」

 松尾さんは今もいろんな場所でいろんなカレーを食べるそうです。カレーは味と香り、味覚と嗅覚をフル回転して楽しむ食べ物。でも味よりも香りの方が、さらに深く種類が多いのだそうです。

「味のパターンというのは、黄金律があると思うんです。酸味、苦味、甘味、しょっぱさ、旨味、という五角形の均整が取れた味がおいしい。だけど香りはまったく違う。味はせいぜい何百種類だと思いますが、香りは味の二桁以上たくさんの種類があるんですよ。だから『なんでこの店、こんなうまいねん』というときって、実は味のバランスは取れていて、そこに香りの特色があるんですよ。味のことを感じているようで、実は匂い、香りのことを感じていることがほとんどです」

 何かを美味しいと思うのは、味の均衡の上にある香りの力が大きい。松尾さんはその解にたどり着いていました。

「人間の味覚の遺伝子の受容体は36。嗅覚の受容体は1960あるそうです。その組み合わせだから、全然桁違いなんですよね。その香りのバリエーションの世界はものすごく広い。最近はやっている、お焦げのメイラード反応も、その焦げた香りが美味しいって錯覚させてくれるんですよね。
香辛料、というけれど、辛いのは、ほぼ痛みでしょ。まあ唐辛子もわさびも山椒もあるけれど。
だから香辛料の香、が味を左右するんですよ」

 香りが味を左右している。そのことから、松尾さんは人間にとっての香りの大切さをこう語ってくれました。

「香りがいかに大切か。人間が前に向かって歩くのに、その香りを察知するための。鼻が一番前についているじゃないですか。動物もそう。魚もそう。ミミズだってそう。食べて生きていくために、これを吸収していいのかどうかを判断するのが嗅覚です。視覚は一番最後にできている感覚。だから、受容体は4つしかない。嗅覚は本能的にも一番作用も影響が大きい。だから想像力を喚起させたりもするし、誰かを思い出したり、出来事を思い出したり」。

《3》父の最期のご褒美は薔薇の香りだった

 何かの香りで誰かを思い出す。松尾さんにとっては、薔薇の香りがお父様の晩年の姿を思い起こさせるそうです。

「父が晩年、4ヶ月ぐらい入院したんです。だんだん、食も細くなってきて、誤嚥性肺炎を避けるために水も飲ませない状態で。全部栄養は管から。点滴とかそういうことになって。本人は何の楽しみもない。父はジャズが好きなので、ジャズのCDを買っていったけど、聴きたくないと言う。昔好きだった映画のDVDを持って行っても、見たくない、消せと言う。何を見せても聴かせても楽しくない。食べる楽しみもない。体は動かない。それで、よく世話をしてくださったイシハラさんという看護師さんが『痰の吸引がうまくできたらご褒美あげますからね』と言ったんです。ご褒美ってなにかな、何あげるつもりなんやろと思っていたら、薔薇のオーデコロンを、手首の脈のところにつけてやるんです。父はそれをこすって嗅いで、すごく幸せそうな顔をしていました。至福の表情でした。最後に感情を動かしたのを見せてくれたのは、その薔薇の香りだったんです」。

松尾貴史さん

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