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    第199回:永田和宏さん(歌人、細胞生物学者)

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《2》亡妻は、母親を知らない自分に母親でもあろうとしてくれた

 わたししかあなたを包めぬかなしさがわたしを守りてくれぬ四十年かけて

河野裕子『母系』より

 永田さんは、3歳の時に母親を結核で亡くしています。彼のその寂しさを全身全霊で埋めようとしたのが河野さんだったのでしょう。

「自分が母親になろうと思っていたし、この人を支えてやろうという想いはあったのでしょうね。それが私を支えていた。でもそれ以上に、そう思うことが、河野の私と一緒にいた四十年を支えてきたと言うんですね。それは生きている間には気づかなかったことでした。お互いにまっすぐで、よくぶつかり合ったし、たくさん喧嘩もしました」

 喧嘩をしても、翌朝には歌が置いてある。そんなこともあったそうです。

「この人だけは自分の歌を最初からずっと読んでくれている。そういう信頼感はありました。そしてそれが連れ合いであるということは大きかった」

 そんな彼女に癌が見つかったのは、亡くなる8年前。まだ54歳でした。

「再発してからが大変でした。置いてけぼり感というのかな。連れ合いが遠い人になっていくという感じ。その寂しさが河野の精神を不安定にしていった」

 最後の10日間は、口述筆記で彼女の歌を書き留めました。

あなたらの気持ちがこんなにわかるのに言い残すことの何ぞ少なき

手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が

河野裕子『蟬声』より

おはやうとわれらめざめてもう二度と目を開くなき君を囲めり

永田和宏『挽歌』より

永田和宏さん

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