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    第202回:坂本頼光さん(活動写真弁士)

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《2》映画と演芸の間に活弁があった

 やがて中学生になった坂本さんは、漫画以外に、落語、演芸、映画と興味の範囲を広げていくようになりました。

「あるとき、映画と演芸の間に活弁(活動写真弁士)という芸能があることを知ったんです。当時は3〜4人いらっしゃったでしょうか。その内のお一人のマネジャーさんに弟子入りをお願いしたら『非常に厳しい。生活できませんよ。素人の範囲で、趣味としてやったらどうですか』と言われました。確かにそういう同好会のようなサークルがあり、そこに通ったりもしました」

 ところが坂本さんが20歳になったとき、突如、仕事場が誕生したのです。

「鶯谷に『東京キネマ倶楽部』という無声映画を365日見られるシアターレストランが開店したんです。バブルの残滓でしょうか、資産家の方が出資したらしいんですね。3〜4人の弁士では間に合わないということでオーディションがあり、僕も選ばれました。今、プロの活動映画弁士は20人ぐらいいると思いますが、半分近くはそのときのオーディションで選ばれた人たちではないでしょうか」

 その店は段々と経営が厳しくなり、やがて普通の貸しホールになってしまいました。
 それでも諦めずさまざまな場所で活動映画弁士を続けてきた坂本さん。驚くような出会いもありました。

「あるとき、仲間と出ている会に周防監督が来てたんです。『あれ、周防監督じゃない?』と話していたら、何回もいらしていて。ひょっとしてと思ったら、ひょっとしたんですねえ!」

 周防正行監督はその取材をもとに映画『カツベン!』を作り上げたのでした。坂本さんは主人公の成田凌さん、永瀬正敏さんの指導もし、出演も果たしています。

坂本頼光さん

《3》これは面白い!と思って入ったら、人がいなかっただけ。

 ⚪︎年前に落語家協会に加盟し、寄席にも出られるようになったという坂本さん。先日は『笑点』で木久扇さんの卒業記念に活弁を披露しました。

「木久扇師匠には17~8歳の頃から覚えていただいていました。それで今回も事前に、坂本くん楽しみにしてますよと言ってもらえました。当時は今のようにCSやBSもなかったので、時代劇映画を見る会があったんです。たまたま、師匠が住んでいらっしゃる地域で開催していて『君の齢で活弁をやるのは珍しいから、最初からギャラは高く設定しなさい』なんて言ってもらいました。落語家の方々には、独演会のゲスト、真打披露パーティーの余興などで呼んでいただくことが多いです」

 恩人がたくさんいることが、坂本さんの財産です。

「人生香炉のなかで、いろんな人に知り合い、助けてもらって、僕はここにいます。27歳ぐらいまでは、バイトをして、そのお金で場所を借りてイベントをするというような日々でした。PCで自作のアニメを作ることができるので、アニメ活弁をしていたら、アニメの声優の仕事が来たり。『鷹の爪』にもネタ会議から参加して、声優としても出ています」

 漫画家を志したこともちゃんと糧になっているのです。
 「無声映画」というコンテンツはどれくらい残っているのでしょうか。

「残存する無声映画は、外国の物、ニュースフィルム等も含めると5万本はあるはずです。でも日本の作品は当時制作された内の100分の1も残っていません。欠落しているシーンがあったり。それでも完全に残っているものは、何百かあります。上映する権利を国の機関で保存しているものもあり、僕が寄席系の仕事でかけるのは大体権利が切れているもの。ヤフオクや骨董屋で買ってデジタル化するんです。あとは業者さんや知人のコレクターから借りたり。これまで100本以上語りましたが、すぐにやれるのは30本ぐらいですね」

 ニッチといえばこれほどニッチな世界もないかもしれません。しかし、坂本さんは隙間を狙ったわけではないと言います。

「これは面白い!と思って入った世界に、人がいなかっただけ。入った後で、これは大変だと気づきました。僕は『好き』が先で飛び込んで、後でジタバタするんです」

 惚れ込んだのは、生の魅力。

「映像、音楽、語り。ライブの本質が全てあって、合体する。三位一体の生の魅力があるんです。
弁士が違えば作品の印象も全く違ってきますから。ぜひ、生で聴いていただきたい」

 撮影をしながら、少し、PCの画面で語っていただきました。部屋を超えて響くくらいの地声の大きさ。心地よい抑揚。画面から出てくる声ではないのに、画像と一体になっていく面白さ。

「生活ができる職業として復権するといいなと思います。弟子ではありませんが、23歳の新人も教えています。やりたい人が近づいてきてくれるのは嬉しいです」。

坂本頼光さん

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