永井さんの小説は、江戸時代であっても、そこに登場する人たちが生き生きと今の時代にも通じているのが魅力です。それは、ライターとしてのインタビューの経験が大きかったと言います。
「ライター時代、私はインタビューをするのが好きだったんです。いろんな方の話を伺って、どうまとめるのかと考えるのは楽しかった。それにエンタメの世界の方、ビジネスの世界の方、と、個性的でしょう。そういう人たちが今の活躍にたどり着くまでにどんな経路で来たのかという過去の知られざる部分を教えてもらえる。思いがけない曲がり角もあったり」
ちょうど永井さんが取材をしていた男性誌で登場するビジネスパーソンたちは、時代の寵児でした。
「ビットバレーの方たちが出てきた頃です。その方たちが、今はIT大手の社長さんになられていたりするんですが、当時はベンチャー企業を立ち上げたばかり…というタイミングだったり。そういう方たちって、結構クリエイター的なところがあって、それがすごく面白かった。だから思いがけないビジネスモデルを思いついたりできるんですよね。いまだに交流がある方もいらして、私の小説を読んで感想をくださったりします」
今の世の中で出会ったリアルな人たちの息吹が、永井さんが描く小説の中の登場人物たちに吹き込まれているのです。
江戸時代を扱うことが増え、まず興味をもったのは、商人たちだったそうです。
「男性誌で老舗の取材もしていたんです。そのなかで、ある老舗の方が「うちは明治維新も、関東大震災も第二次世界大戦も超えてきた」というお話をしてくださったのが、とても興味深かった。そういう歴史を調べるのも好きだったので、ビジネスの街としての江戸が面白いと思ったんです。江戸の商人は文化の担い手でもあったし、社会に対してどう貢献するかといったことを考えてた人もたくさんいる。売り手良し、買い手良し、世間良し、と『三方良し』を意識していたなんて、今でいうSDGsじゃないですか」
一つの作品を書くうちに、その流れで興味を持ったことをまた調べる。それがまた次の作品になる、といったこともあるようです。
「『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』を書いているときに、大奥からのお金の還流といった不正事件があって、それで大奥のシステムを調べているうちに面白くなってしまいまして。『商う狼…』の打ち合わせなのに大奥の話ばかりしていて、それで『大奥づとめ』という小説が生まれました」
『大奥づとめ』は、将軍のお手つきにならないで生きている大奥の女性たちのお仕事小説。
「実際の資料を読むと、縁談があるから帰ってきなさいと言われている女性が『帰りたくない。もっと大奥で仕事をしていたい』というような記述もあるんです。お嫁に行くより働きたい子もいるんだと。それが私の中ですごく楽しかった。今の人とあんまり変わらないんだな、と。ほとんどが大奥でも事務方で、出世すると江戸の市中の長屋の大家になれたりする。老後はお寺で面倒を見てくれる、みたいな。季節ごとにイベントがあったり、本当に楽しそうで、私、ここで働きたいと思ってしまいました(笑)」
実家で居場所のなかった女性が、大奥で働くことで居場所を見つける。そんな登場人物のエピソードも、読者をホッとさせてくれます。