永井さんは歴史を調べ、資料を読んで、そこに人の変わらなさを見つけていきます。
「何時代のどんな人も、変わらないんですよ。なんだ、昔の人も同じなんだ、というのを見つけると、すごく嬉しくて。そんなこと気にしてたんだとか、わかるわかる、と共感するところは必ずあるんです」
たとえば、武士が仕える相手への忠誠心。全員があったように書いてある歴史小説もありますが、永井さんはそこにふと疑問を感じます。
「忠誠心がかっこいい、と思う人もいたでしょう。でも『そんなのどうでもいいよ』と思った人もいたんじゃないかな、と。そうしたら、いたんですよ!現在『野生時代』に連載をしている『青青といく』という作品の主人公で、江戸時代後期の儒学者、海保青陵という人です。この人はその時代に『自由自在』でありたいと言っていました。忠誠心を捨て、家を捨てる。あちこち行って、上の人にも意見しないとダメだよ、と。こんな時代に自由という発想があったんだ。わがままかもしれませんけど、言ってることは至極真っ当。こういう人を見つけると、嬉しいんですよね」
概ね、こういう時代だからこうだろう、という決めつけは、つまらない。歴史上の人物の中にも人それぞれの違い、多様性を見出すことが、永井さんの小説の面白さなのかもしれません。
調べ出したら徹底的に調べる。そういう永井さんですから、香りのことも実に詳しいのです。
「香といえば、平安時代の貴族たちですね。『君を恋ふらん』という源氏物語をもとにして何人かの作家がそれぞれの短編を寄せているアンソロジーに『栄花と影と』というのを書かせてもらったんですね。それは赤染衛門と清少納言が、源氏物語について内緒話をするシーンを作りました。そこに「香木で作られた火鉢」を置いたんです。実はこの火鉢は、「枕草子」の中で中宮定子のところにあったとされるものを思い浮かべていたのですが、どんな香りがするのかなとか、すごく気になります。女人たちはどんな香りがしたのでしょうね。沈香とか伽羅とか、ブレンドはどうだったのか。華やかなのかほのかに香るのか、すれ違ったときに香るのか。そういうのがすごく気になります」
和服を着ることの多い永井さんは、そのときのご自身の香りにもこだわりが。
「着物のときには、匂い袋を入れていたりします。綺麗な袋に入っているような。高僧の方の素晴らしい香りに惹かれて、塗香を買ったこともあります」
永井さんには、古来からある本物のゆかしい香りがお似合いですが、香水にも興味津々。
「定期的に自分の香りが欲しいモードがやってくるんですよ。今はジョー・マローンの小さいボトルがたくさん入っているもので、ブレンドして使ったりしています」
「自分だけの香り」にこだわるのは、平安時代の貴族の女性たちもそうだったように。時代を超えて人の変わらなさを見つける永井さんのセンスに、目が離せません。
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
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