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    第211回:春風亭一之輔さん(落語家)

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《2》就職活動は一切しなかった。自然にプロの落語家になる流れをつくった

 一之輔青年が向かった先は、浅草演芸ホール。寄席、でした。

「小学生から落語と親しんできたので、浅草に寄席があるのは知っていましたが、実際に中へ入ったのは、初めてでした。たくさんの提灯が吊り下げられていて、楽しそうで、照明が赤っぽい。何かを探していた私にとって”何かがある”気配でした。いろんな芸人さんが出てきて、間口の広さを感じました。爆笑をとる人もいれば、渋い芸の人も出てきたり。落語以外にも漫才、紙切り、曲芸、マジック。いろんな芸種がありますから。導入として、とても良かったんです」

 そこで出会った演芸の数々にすっかり魅了された一之輔少年。

「一度入ったら、木戸銭がもったいないので、夜の部の最後まで見ました。帰宅したらラジオの深夜放送です。土曜の夜はニッポン放送で浅草キッドでした。落語とラジオにどっぷり浸かる習慣が始まったんです」

 学校でも、休部状態だった落語研究部を復活させました。やがて一浪後に日本大学芸術学部に入学。サークルはもちろん、落語研究会を選びました。

「落語研究会の顧問は、古今亭右朝師匠でした。年に2回ほど来てくださるんです。合宿で、右朝師匠と1日過ごせて、直接、稽古をつけてもらえるのが嬉しかった。2年生のとき『お化け長屋』を覚えて聴いてもらったら『ああ、これ、談志さんのでしょう』と言われたことを憶えています」

 4年生の最後ごろ、一之輔青年は、プロの落語家になろうと決めました。

「就職活動は一切しなかった。そうやって自然に周りも自分もそうなる流れに仕向けたというか。そういうやり方しかできなかったんです。ラジオで春風亭一朝師匠の『芝居の喧嘩』、『片棒』を聴いて、なんて気持ちよくすんなり耳に入ってくるんだろうと感動しました。テープに録音して聴いていたんですが、音だけ聴いても、この人は本当に耳心地がいい落語をするなと。音の情報が一番大事ですから。それに、優しそうだと。この師匠に入門したい、と思ったんです」

 大学を卒業し、弟子入りを決意しました。

「師匠の一朝が新宿末廣亭の楽屋口から出てくるのを、向かいのビルの前で待ち構えました。6日間、待っていましたが、声をかけるタイミングがつかめなくて。とうとう、7日目に『で、で、弟子にしてくださいっ』と。この時の私の形相のことは師匠にも真打ちの口上でネタにされましたが、緊張しすぎて顔がこわばり、震えているので『こいつに刺されるのか』と、驚いたそうです」。

《3》師匠は優しかった。ただしすべて”自分次第”

 入門してみると、一朝師匠は実際に優しい人だったようです。

「見た目と変わらず優しかったですね。放任です。それは逆に言えば、厳しいのかもしれません。一応、見てはいるんだろうけど。稽古すればするだけ、上達するし、しなきゃダメになるし。それはもう自分次第だと。家の掃除とか、細々した師匠の家の用事をするより、その時間は落語を覚えたり、踊りや鳴り物の稽古をしたりした方がいいと。あと、歌舞伎を見たり、映画を見たり、そういう時間にしなさいと言われました」

 当時はまだまだ内弟子で師匠の家の用事をすることが当たり前だった時代。

「自分としては良かったですね。人によるんでしょうけど。合う、合わないがあるし。難しいところですね。理不尽に耐えるという修行は必要なのかどうか。それ意味があるのか、という考え方もある。一方で、気を使うとか、この人はどうしたらご機嫌になってくれるのかというのを考えるのも修行なので。そういうことイコールお客さんが何を望んでいるのかを察知する能力につながるという考え方もありますよ」

 一之輔さんの場合は、そこでインプットしたことが今に生かされているのでしょう。それに、入門するまでの人生のなかで、人並み以上に人間を見つめ、触れ合って来られたようにも感じます。
 入門して11年。21人抜きで真打昇進を果たした一之輔さん。おそらく大変な努力と勉強を重ねて来られたに違いありませんが、ご本人はちょっと恥ずかしそうにこうおっしゃいます。

「周りが言ってくださってね。運がいいんですよ。それにうちの師匠は敵がいない。みんなに愛されている師匠なんで。どの世界も一緒ですけど、足を引っ張ろうじゃないけれど、そういうのあったりなかったりするじゃないですか。うちの一門はそういうのがなくて、周囲からも好かれていて、なんかみんなで盛り立ててやろうみたいな雰囲気でしたね。そういうところも本当に感謝しています」

 そういう一門に育ったことが、今、『笑点』の立ち位置にも生きているのかもしれません。

「『笑点』の大喜利でも、普段と言ってることは変わらないんじゃないですかね。チームプレイだし、ああいうのは。一人だけ目立ってもしょうがないから」。

春風亭一之輔さん

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