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    第219回:三ツ矢雄二さん(声優、マルチクリエイター)

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《2》モーツァルトの完璧な笑い声をつくってオーディションに合格

 私たち受け手は、アニメのそのキャラクターを、声で覚えていたりするものです。
 例えば『タッチ』の上杉達也の声は、少年ヒーローらしい、若々しいハンサムな声です。

「声優のなかでは僕の声は高い方だと思います。だから、少年役にはぴったりだった。上杉達也の場合は、自分の声のまま、声をつくる事なくできました。だけど『キテレツ大百科』のトンガリくんの声はつくってやっています。つくってやるのは、最初の2〜3回はちょっときついですが、慣れてしまえば割と楽にできるんで。何事も慣れが肝心かな、と。習うより慣れろ、という感じでやってきましたね」

 映画の吹き替えでは、『アマデウス』のモーツァルト役が心に残っているそう。

「もし、映画の吹き替えで一番の代表作はと言われたら『アマデウス』のモーツァルトの役ですね。すごく大変でしたし、けっこうのめり込んでやっていました。非常に印象に残っています」

 父親との確執。嫉妬に燃えるライバルのサリエリのモーツァルトの才能への冒涜。シリアスでドラマティックな人間関係を描いた映画ですが、難しかったのは、こんなシーン。

「モーツァルトが作曲するシーンがあって、歌いながらつくるので、曲を覚えないといけないんです。そういう苦労もありましたし、もう一つ、彼の笑い声が独特で」

 なんとオーディションは、彼のその笑い声でした。

「ちょっと人を小馬鹿にしたような高笑いなんですけど、それができるかできないかというオーディションだったんですね。笑い声を同じにしてほしいと。うちで原音を聴いて、聴いて、真似して。それでスタジオでオーディションを受けたんですが、全く同じ音程で、速度も合わせて笑いました」

 見事にモーツァルトの役を射止めた三ツ矢さん。キャラクターを分析する力は、やはり子どもの頃から「演じてきた」ことが大きかったようです。

「キャラクターを知るということは、キャラクターの人生を理解するということですよね。でも台本上にそのキャラクターの履歴書が貼ってあるわけではありませんから、自分でいろいろと想像しながら、こういう役の場合はどんな生い立ちなんだろうとか、どういう性格なんだろうかとか、自分の持っている引き出しの中から引っ張り出して、想像してつくっていきますね。子どもの頃から演じることは日常茶飯事だったので、演じることに関しては悩んだりしたことはありません。自分である程度決め込んでやってみて、ディレクターのアドバイスをもらいつつ、固めていく。そういう作業はずっとやってきたことだったので、大変ではありませんでした」

 意外に大変なことは、口に合わせてセリフを言うこと。

「絵や映像の口に合わせてセリフを言うのは、一番職人芸が求められるところかもしれません。自分の生理で喋れないので、ちょっと早めに喋ったり、ゆっくり喋ったりしなきゃいけない。その作業は一番大切で、大変だったりするんです。アニメの場合は、表情はそんなに変わりませんから、いかにセリフと息遣いで表情を出していくのかですから。例えば、パッと振り返ったときに『ハッ』と言うとか、驚いた時に『おっ』と言って見たりとか。普段発せない言葉も入れないといけない。アドリブで必要なこともあるので、そこは大切ですね」

 アニメにはアニメの難しさ、洋画には洋画の難しさがあります。

「例えば、相手が強く出たら、こっちも応えなきゃいけない。情緒的に流れるなら、流れなきゃいけない。それは現場に行って共演者とやってみて初めて理解していくんです。洋画は、そこで人が芝居をしていますから、それに合わせる。逆にそこから逸脱してはいけない。そこがアニメと洋画のアテレコの違いですね」

 ベテランの人たちに囲まれて育ったと言う三ツ矢さん。先輩たちに教えてもらったことも大きかったそうです。特に心に残るのは、『ドラえもん』(日本テレビ版)の初代ドラえもんや、『天才バカボン』のパパの声などを演じた富田耕生さんと、『ドラゴンボール』の悟空や『ど根性ガエル』のヒロシなど、女性でも少年の役が得意な野沢雅子さんのアドバイス。

「富田さんに言われたのは『絵をよく見て、その絵の中で表情の変化をどう見るか。変化がない場合はセリフでどうつけていくかを計算しなくちゃいけない』と。野沢さんにはもう少し細かいこと、例えば台本のチェックの仕方や、読み方、あと、さっき言った口のパクにどう合わせるかといったことを教えてもらいましたね」

 声が命のお仕事ですが、日常はどんなことに気をつけていらっしゃるのでしょう。
「そんなには気にしていないですが、唯一、絶対にするのは外出後のうがいです。あと、収録のある前の日はあまりたくさんお酒を飲みすぎないこと。居酒屋に行くと、つい大きな声になるでしょう。だから、居酒屋とかカラオケには行かないとか、自主規制はしています。とにかく喉の先生に居酒屋禁止と言われます(笑)」。

三ツ矢雄二さん

《3》劇団を立ち上げた経験が生きた、2.5次元ミュージカル

 声優の仕事の一方で、劇団を立ち上げたこともあり、2.5次元ミュージカルの作詞、脚本なども書かれている三ツ矢さん。今も『新・テニスの王子様』の詞を書かれているそう。

「声優を演技指導する音響監督の仕事もしていたんですが、懇意にしているプロデューサーから『今度、アニメーションを舞台化するんです。それで、アニメーションのことも舞台のこともわかっている人に本を書いてもらいたいから、三ツ矢さんにお願いしたい』と。それで『テニスの王子様』の脚本と作詞をやらせてもらったのが始まりでした。昔は脚本も書いていたんです」

 その下敷きになっているのが、30歳のとき、自ら立ち上げたミュージカル劇団『プロジェクト・レヴュー』の経験です。

「オーディションで20人ほどの新人を募集し、『ハイスクール・ストーリー』というオリジナルで書き下ろしたミュージカルを旗揚げ公演しました。5年続きましたが、私が35歳のとき、解散しました。赤字続きでにっちもさっちも行かなくなり。でもそのときに培った経験は、後々、本当に役に立っていますね」

 書くことは大好きだという三ツ矢さん。これまで書いた詞は1000曲以上。そして今回、満をじして自伝エッセイ『曲のない詞』が刊行され、重版がかかりました。

「古稀の良い記念になりました。ちょっと時間的に余裕があったので、空いている時間に書いてみようかと。まずいろんなタイプの詞を書き出して、それが50篇になったので、本にしようかと版元に相談したら、エッセイがつくともっと面白くなるかもしれないですね、と言われまして。それで自分の人生を、幼い頃から振り返って書いてみて。エッセイ1篇につき、書き溜めた詞から一つ合わせて。すぐ曲にできるような詞なので、読んでくださった方がその詞に曲をつけて楽しんでもらえたらと思っています」

 これからは小説にも挑戦したいという三ツ矢さん。

「小説って書いたことがないんです。でもこれから、書いてみたい。割と推理小説は好きだったりしますが、僕が書くとしたら、恋愛絡みのおどろおどろしいものになるかも!」

 それは楽しみです。人間を深く探り、演じてきた三ツ矢さんならではの小説が出来そうです。

三ツ矢雄二さん

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