気になる二人の男のロードームービーのような『直江津、午前五時五十九分まで』。
二人の男は、それぞれの悲しみを背負って、新潟の直江津に向かうのです。
「それぞれのやるせなさと情けなさ、喪失感と戦う二人が偶然出会い、旅をします。伸さんの役は総菜売り場の店員で妻を失い、僕の役は元ヤクザで舎弟を失ったばかり。二人で悲しみと向き合いながら、乗り越えていこうとする話です。僕は北海道出身の道産子で、伸さんは本当に新潟出身なので越後人で」
津村さんと清水さんは、コロナ禍でも小さな規模で公演をしていました。
「コロナも落ち着いた今、ちょっとガッツリ、どっぷり二人芝居をやれないかということで。東京公演の後、清水さんの地元の新潟でも公演を行うんです。そちらは清水さんのおかげでほぼ完売くらいの勢いです」
脚本、演出は深井邦彦さん。
「すごくいい本を書いてくれました。深井さんは30代ですが、これからどんどん表舞台に飛び出していくと思いますので今回は必見ですよ!」
二人芝居は二人が主役。シリアスな設定ですが、どんなお芝居になるのでしょう。
「僕は割と普段はお調子者の役 をいただくことが多い。清水さんも『ニトリ』のCMでお馴染みのコミカルなキャラが多いかもしれませんね。僕は別にそういうのが嫌なわけでもなんでもないんですが、今回の舞台では今までとは違う、新たなものを見せられないかと思っているんです。普段は見せることのない二人を見せられたらなというのが、出発点なんです」
自分たちだけで作り上げていく、舞台。演劇。そういう場をもてるのは、演じる人にとっても、それを見る人にとっても豊かなことでしょう。
「いただいた役の仕事を演じる、というのも、ありがたいことです。でも、ベースとして、今まで僕にはモダンスイマーズがあったわけですが、だんだんみんな歳を重ねて 公演回数も1年に1回から2年に1回ぐらいの感じで減っていっています。そうなると、劇団とは別にもっと自分で能動的に動けるような、ライフワークにできるものはないかと考えて『道産子男闘呼倶楽部』という、北海道出身の扉座の犬飼淳治さんと二人でユニットを組んでいます。」
今回の『直江津、午前五時五十九分まで』は、津村さんの役者人生にとっての新たな出発点となるものなのです。
ところが、ウィキペディアには、不思議な記述が。津村さんのところに「兼業役者」とあるのです。そこには警備会社の名前も。
「そういう人は多いと思うのですが、生活的に苦しい時代もありましてね。25歳くらいからかな、掛け持ちで警備会社に籍を置いて、本当に苦しいときは警備員を毎日やっていたんです。もちろん、役者の仕事があるときはそちらは休ませてもらって。今はほとんどやれてない、いや、それでいいのかもしれないんですけど(笑)。でも籍は置いてもらっているんですね。在籍25周年ぐらいじゃないですか。モダンスイマーズと同じくらいか。長い付き合いだから、融通きかせてもらえるんですよ」
俳優である津村知与支を支えてくれる会社の存在。なんと舞台を協賛してもらえることも。
「一時期、『道産子男闘呼倶楽部』のときは、協賛もしてもらったんです。社員の方々もこぞって観に来てくれるんですよ。だからなんだか居心地がいいというか。何ヶ月も顔を出さず、連絡一つしなくても良くて。自分の中の役者の部分では何やってるんだ、と思うこともあるのですが。誰かがウィキペディアに書いた兼業役者、っていうのもねえ。別に悪意をもって書いたとは思えないんですよね。なんか不思議だなと。ただ売りにすることではないので、悩ましいな(笑)」
ハングリー精神がないのかも、と笑う津村さん。確かにその言葉は似合わなさそうです。
「家族もいますし、生活していく上でどちらも大事ではあります。そういう意味では、もっと知名度を上げてとは思いますが、ハングリー精神みたいなものが最初からあまりないのかもしれない。でもね、今回の公演のような軸足はちゃんと持っていたいんです。自分の居場所はここなんだ、という。そうでないと、自分が自分でなくなってしまう」。