料理には調理の過程で、さまざまな香りとの出会いがあります。
切る、炒める、煮る、蒸す、揚げる…。
「野菜を切っても香りがしますよね。例えば、きゅうり。きゅうりって、置いておいてもあまり匂わないけど、切った瞬間、匂いがする。青臭い、っていうけど、野菜の香りです。それから、日本人は炊き立てのご飯の香り、出汁の香りってほとんどの人が好きなんじゃないかな。料理にとって香りはすごく大事ですよ」
きじまさんは料理のデモンストレーションのイベントをしたとき、その香りの大切さをしみじみ感じたそうです。
「僕の手元をカメラで写していて、後ろに大きなモニターがあって、お客さんにはそれを見てもらうというパターンが多いんです。でも、後ろの方の客席の人は、つくっている絵は見られても、香りが届かない。それってリアリティがないんですよ。つくっていると、材料を炒めていい香りがしてくる。そこがすごく大事なタイミングだったりするし、その香りこそが料理のリアリティを一気につくるんです。だから、僕はフライパンをもって客席を走り回ることにしました。それは友達の中華のシェフに教わったワザなんです。だからね、大人数のデモンストレーション・イベントのときは、香りの強い料理を一品は入れます。カレー炒めとか、にんにくとか」
お客さんは、その料理のいい香りに大喜び。なんだかわかる気がします。町中華もイタリアンも、にんにくや香辛料を炒めたいい香りが漂うと、早く食べたい気持ちが高まります。
「だからいまだにね、味と香りは実物じゃないと再現できないじゃないですか。それっぽい香料でバーチャルに香りを出すという映像があるらしいけど、本物には勝てないですよね」
香りに敏感なきじまさんは、家でお香をたくことも多いそう。
「ただお香って、料理の香りとケンカするでしょう。香水もそうですよね。接客のときにつけているシェフとか料理人は少ないでしょう。だけど、思うんですけど、食べ物の香りそのものの香水とかあれば、意外とつかえるんじゃないかな。たとえば、レモンの香りだけの香水とか」
料理を主役にするための作り手の単一の香りのフレグランス。ちょっと面白そうです。