• 1. 特集

• スペシャルインタビュー「今、かぐわしき人々」
  第225回：きじまりゅうたさん（料理研究家）

《３》料理家になる道筋も、伝え方も変わった。でも一生続けたい

　料理研究家としてデビューして今年15年になるというきじまさん。その前に母親の杵島直美さんのアシスタントをしていた時代も約４年ありました。

「トータル18～19年になるんですね。ちょうどアシスタントをしていた頃に、世の中の料理研究家の概念が変わっていった時期だったんですね。料理家になるための道筋が変わっていったというか。それまでは、どなたか著名な料理家のアシスタントをやって、そこからデビューしてという人が圧倒的に多かった。あるいはシェフの方とか、料理教室を長年やられた方とか。でもちょうど僕と同世代くらいから、ブロガーブームが始まったんです。料理の仕事の外の世界にいた人たちが料理研究家としてデビューすることが一気に始まったのが、2000年代前半でした。ブログが始まり、クックパッドが始まり、というように」

　アパレルメーカーを辞めて料理家になろうと決め、ひたすらアシスタント業に専念していたきじまさんにとっては予想外な、つらい時代ではありました。

「僕自身は泥水すすっていた時代だったので、けっこう焦りました。そういう人たちがたくさん出てきてバンバン売れていきますからね。その前に一回、高校のときに『料理家になりたい』と言ったら祖母には反対されました。『男性がやる仕事じゃないからよしなさい』ってね。祖母は昭和２年生まれですから。その当時の人は一般的にそう考えたんでしょう」

　きじまさんのことを本当に可愛がった村上さん。よく似ていたのかもしれないそうです。

「祖母は目白にあった呉服店の四女で、住み込みの人たちと一緒に賄いをつくったり、お店に立つのが楽しかったという人で。長女はお嬢さんに育てられたみたいなんですが、祖母はそうやって働きながら、覚えていくタイプだったんですね。そこは僕も似ているのかもしれません」

　村上昭子さんは、テレビというメディアでお袋の味を世の中に知らしめた人でした。

「だから、今見ても、祖母の料理は現代的で、SDGsっぽくて、無駄はないし、短時間でできるものが多いんです。そういうところは伝えていきたいですね」

　時代と共に、家庭料理のあり方も食の形も変わっていきますが、普遍的な変わらないものもあります。ただ、それを伝えるメディアはまた大きな変革期を迎えています。紙が減り、WEBになって。テレビでなく、配信を見ている人も増えてきました。

「最近、僕はやっと家業の３代目をやらせてもらってます、と言えるようになってきました。できれば僕はこの料理家の仕事を一生ずっと続けていきたいと思っています。じゃ、一生やり続けるためにはどうしていこう、と、その方法を模索しています。YouTubeも、3年で300本ぐらい出していますが、まだまだネタは尽きないです。今、WEBサイトで、一般の方とその方の推しのスーパーに行って、一緒に料理するという企画もやっています」

　明るくてトークの引き出しも多いきじまさんには、まだまだ料理家として新しいジャンルが切り拓けそうな気がします。何よりも遺伝子レベルで料理家な人のアイデアや箸捌きなどの動きは、見ていてとてもアートなのです。

1. <<前のページ
2. 3/3
3. 次のページ>>

● YouTube　きじまごはん
https://www.youtube.com/@kijimagohan

● Instagram
https://www.instagram.com/ryutakijima

● X
https://twitter.com/kijimaryuta

取材・文　森　綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』（スター出版）。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』（マガジンハウス）など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

撮影　萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』（ワニブックス）、北乃きい『Free』（講談社）など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com