そんな激動のアイドル時代に、自分の気持ちを安らげるために使っていたのが、香りだったそうです。
「その当時は、お香に火をつけたりができなかったんです。アイドルはライターをもってちゃいけないと言われて。煙草を吸ってると思われちゃうから。それで、簡単に楽しめるものが乾燥させた花びらを詰めたようなポプリでした。『ポプリが好きです』と公表したら、ファンの人たちからたくさんいただいて。匂い袋ももっていましたね」
入院していたときも、香りのものをもっていたそうです。
「今は、オリエンタルな香木のような香りや、白檀なんかも好きなんです。お寺とか、日本の旅館でそういう香りがするととても幸せな気持ちになれます。懐かしいような」
懐かしい、という感覚には、こんな秘密もありました。
「ある番組に出させてもらったときに『前世は僧侶だった』と言われたり、まあ、そういう前世をみる方に会うと、同じようなことを言われるんです。だからそういう香りに心が向くとか、懐かしいと思うのは前世の記憶が残ってるのかな、なんて思ったりします」
そんなふうに香りから想いにふける時間は、今生きているこの人生を見直す時間にもなりそうです。
2011年に3度目の結婚をし、夫の子どもを合わせて7人の母親になったちえみさん。著書には、その夫の尼子さんとの出会いが「3度も偶然出会った」ことがきっかけだったと記されています。
「最初は、偶然とか言ってるけど待ち伏せされてたんじゃないかと思ったんですよ。(笑)でも13年間、一緒に住んでみて『そういう偶然を起こせるような人なんだな』とわかった気がします。運も強いし、悪いものを跳ね除ける力もすごい。車で言えば、ダンプカーですね(笑)」
その一方で、繊細で優しい感覚をもった方のようです。
「この間も、地方に商談に行って、うまくいきそうだったのが嬉しくて、その自分の嬉しさを他の人にも貢献しようと思ったらしく、献血をしてきたんです。そういうふうに感謝を表したい人なんですね」
ちえみさんは2019年に舌癌のステージ4と診断され、大手術をしました。舌を6割切除したちえみさんはリハビリを続け、今は歌えるまでになっています。その隣には、夫の尼子さんの心身を思い、家族のことまでしっかりと考える力強いサポートがあったのでした。
「言葉が全部前向きなんですよね。最初は『本当に考えてくれていないのかな』とか『私の気持ちを分かってくれていないのかな』と思ったりしたんです。でもそうじゃなかった。一緒になって悲しんでいたら、子どもたちはそれを受けてもっと不安になると思っていたようなんですね」
なぜ前向きな言葉を並べ続けたのか。その理由は今回の著書『人生の悩みをシンプルにする50の言葉』の尼子さんの書かれた部分に初めて告白されていました。
「夫の前向きな言葉の理由を今回の本で初めて知ったんですよ。そこまで考えてくれていたんだなあと。昭和の男ですからね、言い訳とか理由づけとかしないんですよ。ある意味不器用で」
尼子さんは「ご飯を食べるときには明るい話をしよう」と言うそうです。
「普通、ご飯を食べながら悩みとか語り合ったりもするじゃないですか。でも彼は『もっと将来性のある明るい話をしよう』って言うんです。2019年だったかな、家族で横浜の中華街に行ったら話が盛り上がって、みんなで『来年の夏は上海に行こう』と言う話になって。言葉に出したら実行しちゃう、有言実行な人ですから、本当に計画していたんだけど、コロナ禍になって行けなくなりました。そうしたら、この間、イタリアンを食べに行ったときに、またイタリアに行こうという計画になっていました」。