日本財団の調査によると、日本の中学生で「家族を世話している」と答えた人は17人に1人。
「ヤングケアラーと一言で言っても、そのなかにはグラデーションがあります。お手伝いのレベルで、自分のことと家のことが両立できている人もいれば、最も過酷なヤングケアラーは、親からネグレクトされてしまっている人もいる。そういう家庭はすぐにでも介入と支援が必要ですし、そうではないお手伝いのレベルの家庭は見守りでいいとは思います。でも過酷な状況に置かれているヤングケアラーが確実に今も存在しています。その一人を救えるかどうかが、大事です。ちゃんと先生がSOSをキャッチして、見逃さないでほしいと思います。
町さんが住んでいるさいたま市では、令和3年の調査で、小中高の公立校に通う約34000人のうち、1300人あまりがヤングケアラーだったのだそうです。
「そのうち8人が学校に通えていないと答えていました。重要なのは、その8人に先生たちがアクセスできるかどうかなんです。ヤングケアラーが1300人いました、という結果を出して終わりではなく、その子たちが具体的に何に困っているのか、何を相談したいのかという実態把握をすることが大事です」
町さんが高校で授業後に感想を書いてもらっても「私もそうです」「僕もそうです」と書いてくれる人がいるそうです。
「自分がそうだと伝えたい子もいるし、一方で『自分もそうだったのか』と気づく子もいるんです。つまり、当たり前に無我夢中でやってしまっている子もいるということなんです」
町さん自身も、車椅子になったお母様の代わりに父、弟、妹を支えながらの勉強と家事。精神的にも母親代わりもしなくてはなりませんでした。
「私も長女の自分がやらなければと思っていましたし、弟や妹も『お姉ちゃんが大変だから手伝う』という気持ちでいてくれたと思います。母が倒れた直後は一日一日を乗り切るだけで精一杯でしたが、成長するに従ってやはり、同世代と比べてできないことが出てくるという感じなんですよね」
そういう子たちに気づいたとき、どう声をかけてあげれば良いのでしょう。
「ひとりひとり抱えている事情が異なりますので、必要な声かけも当然違ってきます。これは介護している大人の人に対しても同じで、かけてほしい言葉は違うと思うんですよ。こう言えば心を開きます、という魔法の言葉はありません。」
だから町さんは、今回出した『受援力』をマニュアル本にはしたくなかったのだと言います。
「その人をよく観察して、何を褒めてあげたらいいのか、話の糸口を見つけてほしい。ヤングケアラーは困り事を自分で上手く言語化することができません。大事なのはよく話を聴くこと。話したくない人には無理に聴かず、待つこと」
町さんはその介護の現場にいる子たちが「話したくない」という気持ちも大事にしています。
「どちらかというと、忘れたい、と思うこともあるかもしれないから。家でしんどいことを学校に持ち込みたくない。だから、気を使うのではなく、学校だけでも子供らしくいられるように、一番楽しい場所にする、笑っていられる場所にするのも大事なことだなと思うんです」
おそらくそれは、町さんの実体験から出てきている思いなのでしょう。
「頑張っている子には、頑張ってるね、と言ってあげてもいいと思います。また具体的に何も言わなくていいから、ポンポン、って肩を叩いてあげるとか。それだけで『この人は見ててくれている』と思えます。心に響く言葉は人によって違っていて『無理しないでいいよ』と言われても『無理しなきゃやってられない』という時もありますので。だから私は言わないかな。あの時のあの人の言葉が自分を励ましてくれた…と後で分かることもありますし、逆に何も言わなかったことが雄弁だった、というようなことがあるし」。
助けが必要なのは、子どもたちだけではありません。誰でも、歳を取ればなおさら、親の介護の問題はいつ直面してもおかしくありません。『受援力』にはそうなったときの心構えだけではなく、実際にどこへ相談に行ったらいいのか、何を助けてもらえるのかといったことも書いてあります。
「この本は"一家に一冊"という実用書になっています。誰もが全部の当事者になることはないとは思いますが、私は両親のおかげで本当に様々な経験をすることができました。全て実体験を通して〈誰かの助け〉が必要だと感じたことばかりです。突然の病気で入院したとき、退院するとき、リハビリのとき、在宅で看取るときなど、今は色々な制度がありますので、知らなくて使わないのは勿体無いのでアクセスしてほしいと思います。実は何重にもセーフティネットは張られています。自分から情報を得るなど"もしも"のときにセーフティネットを有効に使うための備えが必要です」
知る、知らないは自分事。そして「助けて」と言えるかどうかが第一歩だと、町さんは言います。
「あらゆる場面で、あらゆる世代で、助けて、と言いづらくなっています。私自身も、そこは自戒の念を込めて振り返りながら書きました。まだまだ強がってしまう自分がいるな、と。だからあまり押しつけにならないようにとは思いましたが『助けてって言わなきゃダメだよ』ということを言いたかったんです」
彼女の優しい長女気質も「自分でなんとかしなきゃ」「私が頑張らなきゃ」を手伝っていたのかもしれません。いまだに、父親に対しては「何かしてあげられることがあったな」という想いがあるのだとか。
「母にはすごく親孝行できて、最善を尽くせたかなと思います。でも父にはまだ何かできることがあったかもしれないと…。父が悲しくて死にたいと思っている原因が『母がいなくなってしまったこと』なので、そこは父が自分自身で解決してもらう以外なかったのですが。最期に病院で看護師さんと打ち解けている様子を見て、やっぱり父も家族以外の人を頼るべきだったんだなと痛感しました。父は私が頑張り続けていることを知っていましたので、家族には弱音を吐けなかったのだと思います」
実は町さんのお父様も、高校時代に父親を亡くしていたのだそう。父親と町さんの葛藤も、とても正直に書かれています。家族というのは、それぞれへの想いが深いほどにまた厄介なことも出てきますが、それもこれも含めて、今の町さんを形作っているのです。
「他人への甘え方、頼り方を知らないというところは、父にとても似ています。ケアのプロはそういう扱い方をわかっているので、誰かの助けを受けることを拒否しないで、身を預けてみるのもいいと思います」
「助けて」が言えないのは圧倒的に男性の方が多そうです。町さんの体験は、この本の先にも役立つアドバイスができそう。