フレグラボ|日本香堂

人と香りをつなぐwebマガジン

Fraglab
  1. HOME
  2. スペシャルインタビュー「今、かぐわしき人々」
  3. 第241回:小堀宗翔さん(遠州茶道宗家13世家元次女、元ラクロス日本代表)
    1. 特集
  • スペシャルインタビュー「今、かぐわしき人々」
    第241回:小堀宗翔さん(遠州茶道宗家13世家元次女、元ラクロス日本代表)

    1. シェア
    2. LINEで送る

《2》背負っているものをひとつひとつ外して、別の緊張感のなかで物事に集中する

 『アスリート茶会』は、まず彼女の友達を呼ぶことから始まっていきました。

「私はずっと一人だけチームとは別に特殊なトレーニングをしていたんです。私以外はほとんど男性で、ラグビー選手とか、サッカー選手とか。そこで出会った友達に『茶道しますか』と声をかけて。ノリかな、と思っていたら『真面目にやりますよ〜』なんていう感じで。それで、うちの門に立った瞬間に『やばい、ガチじゃん』と顔色が変わったりして(笑)。私も和服を着て『ごきげんよう』という感じですから『誰?』という感じで(笑)。選手としての立ち居振る舞いとは全然違いますからね」

 そこからは、紹介が始まっていきました。「こういう人が茶道に行きたいと言っているから連れていっていい?」というように。

「オリンピックの前に、競泳の団体の選手や、柔道の選手、監督さんたちもいらしてくださるようになりました。そのスポーツしか知らない、というよりは、日本文化を知ってもらいたい、それを知ってから海外へ出てもらいたいという思いがあるんですね」

 文化を知るという意味合いだけではなく、茶道には精神修練ができるという要素もあります。

「自然に集中できるということもありますし、お香の香り、お抹茶の香りでリラックスするというのもある。美しいお茶碗を見て楽しんで、実際に手に取って触って楽しむというのもある。茶道は五感で感じるすべてがあるんです」

 スポーツで闘うアスリートたちは、戦国武将のように茶道を感じることもあるのかもしれません。

「戦国武将たちがお茶室でお茶を嗜んだことにはいろんな理由があります。アスリートになぞらえれば、チームメイトたちが同じ空間で、同じ時間を使ってお茶をいただくということが、心と心を通わすことになるのと同じかもしれません。ご存知のように、お茶室というのは、小さい躙口(にじりぐち)から、入ります。誰もが頭を下げて平等に入る。刀を差しては入れない。茶室の前に刀がけがあったくらいですから。お茶室の中では平和であり、平等でなくてはならない。そこでお茶を飲み、また戦いの場所へと出ていく。生き残った者が、また安堵の一服のお茶をいただく。アスリートは生きるか死ぬかではないですが、そのくらい、我が身を酷使していますから。心身を削って闘っているので、そのプレッシャーや肩書き、背負っているものをひとつひとつ外して、別の緊張感のなかで物事に集中するのは、とても大事な時間になると思います」。

小堀宗翔さん

《3》お茶は心の状態に気づくバロメーターにもなる

 初めての茶室に入ったアスリートたちは、スポーツ以外の自分になります。

「みんなぴよぴよの赤ちゃんみたいになります。競技の上ではすごいエースでもちょっと不器用だったり、意外に周りを気にしたり。かと思えば、エース級ではない人が、そつなくこなしていたり。スポーツの世界ではない姿に、意外とその人のパーソナリティーが溢れてくるのかもしれません。もちろん、型があるので同じことをやってもらっているのですが、一人ずつ個性が違う。初めてのそこにしかない緊張感のなかで同じことをする。お互いが知らなかったお互いを見ることで、心がオープンマインドになっていくんです」

 初めての場所で、その時教えられた同じ動きをする。同じ動きと言っても、その人が着ているもの、お茶碗の違い、座っている場所など、全く同じ条件ということはありません。

「同じであるためには、微妙に全部変えていかないといけないわけですよね。人間だし、気候もあるし。同じ条件はあり得ないなかで、美味しいお茶を点てる。そこにはいろんな変化に敏感になる気持ちが必要になってきます。アスリートの人たちにお茶を嗜んでもらうと、試合の前とか寝る前にお茶を点てて、写真を送ってくる人がいます。『今、僕の心はどういう状態か』というんです。『私は占い師じゃないからそういうことはやっていない』って言うんですが(笑)」

 でもアスリートの人たちは、それくらい、自分の心身を敏感にキャッチすることは大切だと経験的にわかっているのでしょう。

「気づくことはすごく大事ですからね。調子いいぞ、と思ったらケガしちゃったとかいうこともあるし。誰だって最高のコンディションで試合に臨みたいわけですから、お茶を点てることで、今日のお茶は苦く感じたとか、自分の体調が疲れているのか、気持ちが荒っぽいのか、そういう心に気づく一つのバロメーターになったらいいなと思います」

 宗翔さんご自身も、アスリート時代、お茶を心身の状態を測るバロメーターにしていたこともありました。

「試合前に飲んでいました。そうすると、飲む時間がない、というときは、朝からバタバタしていて、準備不足だったりするんですよね。良いお茶を飲むと、集中力も高めますし、反対に寝る前ですと、リラックスする。真逆の効果をもっているんです」

 心身を支えてくれるお茶。宗翔さんの場合、その心を整えてくれるのは、お父様の存在そのものでもあるようです。

「父は朝起きてから寝るまで、お点前のような生活を送っています。お点前は、閉じたものを開いて、それをまた片付けて綺麗にして、閉じるもの。そういう無駄がない美しい暮らしぶりなんです。慌ただしくなるのは自分のせい。お点前のように生活できたら本当に無駄がなく、美しい。その境地には私はまだまだ届きません。私には無理だと思うので、常に遊びをもって、大きな振り幅で広めていけたらと思っています」。

小堀宗翔さん

  1. 2/3

スペシャルムービー

  • 花風PLATINA
    Blue Rose
    (ブルーローズ)

  • 日本香堂公式
    お香の楽しみ方

  • 日本香堂公式
    製品へのこだわり

フレグラボ公式Xを
フォローする