遠州流茶道の美しさは、無駄のない茶道の型に加え、綺麗さを加味したというところがあります。
「『綺麗さび』という特徴があります。千利休の唱えた『わびさび』は無駄なものを一切削ぎ落とした美しさでした。お茶室も狭くして、暗くして、お道具も色味がないのが美しいと。対して、遠州という人は、初めて来た人が暗くて狭いお茶室に入って、黒いものに囲まれてもいると美しさを見出しにくいのではないかと考えたようです。わびさび、という研ぎ澄まされた精神に、明るさ、豊かさ、艶、光を取り入れようと。黒よりも白の方が、人の色に染められるという客観的な美しさがある。そういう美を追求したのが遠州流茶道で、私たちはその『綺麗さび』の概念を受け継いでいるのです」
その門を一歩踏み入れたときに出迎えてくれる美しい植栽。邸のなかの思わず見入ってしまう調度やしつらいなど『綺麗さび』の世界は豊かで眼福が止まりません。
宗翔さんの艶やかな和服姿もまさにその一部。でも彼女の奥にある一本通った芯も、この流派の魅力です。
「スポーツをやっていると、みんなすぐハグしたりするんですけど、私は『おばあちゃんちの匂いがする』と言われました(笑)。『炭の匂いがする』とか。毎日、お参りもしますし、お茶室でお香も炊くので、その香りがしみこんでいるようです」
お香の香りのアスリートだった彼女は、振り幅広く、これからもいろんなことに挑戦していきます。
「イベントとしてお抹茶カフェをやったりもしています。茶道という枠を広げて、世界中の人がお抹茶に興味をもってくれるのはありがたいことだと思うんです。コロナ禍もあり、職人さんも少なくなっていますし、お茶を点てる茶筅という道具も奈良の方で、今職人さんが16人しかいない。100年に一度の竹に花が咲いている時期でもあるようで、いろいろ変えていかなきゃいけないタイミングでもあるんです。なんとかしたいなと、ここ半年は職人さんを巡ったり、お茶の成り立ちを伝えるような仕事をしたりもしています。一刻の重みの大切さと、軽やかに広がっていく空間を両方大事にしたいです。歴史の循環のなかに、無くしたものをどうやってつくるか努力するときなのかもしれないなと」
彼女は新たに『ライブ茶道』という概念を伝えようとしています。
「Live。生きているという意味です。生の茶道。寸分変わらないお点前の精神性はそのままに、どんな時代の変化にも、柔軟に応えていく茶道。令和の時代に生きている限りは、今の時代の人たちと生きている茶道を模索したい。茶道の歴史を紐解くと、その時々、やっぱり偉い人、すごい人がもてはやして評価し、新しいかっこいいものを取り入れていったんですよね。だから、新しい美しいもの、すごい人とのコラボレーションは必要なんです。また400年後に『あの人がこんなお茶碗を使っていたんだ』と歴史に残るのは、すごくいいじゃないですか。未来につなげていくために。私はそういう立場で生まれてきましたから」
何かを伝えていくためには健やかな熱量も必要です。それをもつ小堀宗翔さんは、遠州流茶道の良さを広めていく翼をもっている人なのです。
遠州流茶道 小堀宗翔(優子)インスタグラム
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小堀宗翔オフィシャルサイト
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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com