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    第247回:松尾優さん(ポップスピアニスト)

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《2》一本の動画から中国の大手レーベルでのデビューへ

 大阪、京都。ライブハウスで歌い続ける彼女には徐々にファンがついていきました。
 でもあるとき、ちょっとショッキングなアドバイスを受けたのです。

「活動初期の頃、大阪のライブハウスでのライブの後のことでした。その日の集客の結果を聞いたりギャランティを頂くなど、精算してもらう時間があるんですね。そのときにオーナーから『そのピアノは、もういいから。ピアノ弾けるのはわかったから』って言われたんです。
要するに、お客さんにピアノの技術を見せびらかしているように聞こえるというわけです。歌を引き立たせるためにはピアノはちょっと力を抜くべきだと。そのときの私は、その言葉に驚きと衝撃を受け、よくのみ込めないまま、ピアノを思いきり弾くことを封印してしまいました。すごく納得したわけではなかったけれど、無意識のうちに、なんとなく目立たないように弾くようになったんです。ひとことで言うと、抑える、ようになりました」

 それから5〜6年経った頃、レギュラーで出演していた祇園のミュージックバーにお客としてふらりと立ち寄った松尾さんの隣に、ある男性が座りました。

「『僕、京都出身の建築家なんですが、今、北京にいるんです。それで、僕が設計したミュージックレストランのボスが結構、中国の音楽業界では有名な人で、日本で良いミュージシャンがいたら見つけてきて、と言われているんです』と言うんです。そうしたらその店のオーナーが『優ちゃん、なんか弾いてあげたら』と。それで、歌はマイクのセッティングも時間がかかるし、とりあえずピアノでオリジナル曲の『カフカ』というのを弾いたんですよ。そうしたら、その建築家の男性は動画を撮っていました。『中国に来られることがあったら案内くらいはできるから、また連絡してください』と、LINEを交換して、出ていかれました」

 なんとその動画が、その中国のボスの目に留まったのでした。

「2日後くらいに『ボスがこの子を呼べと言ってます。近々1ヶ月くらい空けられませんか』というLINEが来たんです。びっくりしますよね。周りの友達も『ほんまに大丈夫なん?』『拉致とかされて帰ってこれへんようなるんちゃうか』『ちゃんと話を聞きや』と、本当に心配してくれました」

 ところが松尾さんはまったく不安を感じず、確信を感じていました。

「私は直感で、これは行かなあかんわ、と思ったんです。直感なので、そう思った理由とかはないです。向こうで所属するのがモダンスカイという大きなレーベルで、一時的にそこに所属してデビューすることになったんですが、今から考えたら、ちょっと怖いですね(笑)」

 彼女が北京へ行くと、もう連日、コンサートをする場所が決まっていました。

松尾優さん

《3》都庁ピアノでの演奏で、思いきりエネルギーを爆発させた

 2019年、コロナ禍になるギリギリ手前の1ヶ月。松尾さんはピアニストとして、突然、中国でデビューしたのでした。

「その当時は歌うことをメインに活動していたから、ワンステージまるまるピアノだけで、私、本当にできるのかなと思ったんですが、決まっているからやるしかない。ツアーが始まると、今日はここでやります、という内容の打ち合わせのみ。日本と違って無茶振りも多いし。でもやっていっているうちに、出たとこ勝負のようなステージに慣れてきて。嬉しかったことは、実は1曲だけ、中国人なら誰でも知っているという有名な曲を中国語で歌えるようにしていったんです。拙いながらもそれは喜ばれました。それで、今日でおしまい、という日に、ボスに挨拶に行ったら、また驚くことを言われたんですね」

 それは、5〜6年前に、大阪のライブハウスのオーナーに言われたのと、真逆のことでした。

「『君のピアノは圧倒的なのに、なぜそれを思いきり出さないんだ』と言われたんです。そのときに、あっ、と思ったんです。私はやっぱり、5〜6年前に『そのピアノはもういい』と言われたことを気にして思いきり表現することを抑えてたんだな、と」

 日本に帰ると、コロナ禍が始まりました。生でライブやコンサートを聴くことが制限されてしまった世の中。演奏する人も聴く人も、それでも音楽に焦がれました。だからそれと同時に動画配信が人気になっていきました。

「ちょうどストリートピアノが流行り始めていたんです。『都庁ピアノ』という有名なピアノがあって、たまたま上京する機会があったので、そこで思いきり弾いたんですね。その私の動画が初バズりしました」。

 思いきりやっていいんだ、という松尾さんのエネルギーがそのとき爆発したのでしょう。

「良くも悪くも本当に私はもらった言葉が素直に反映されてしまうんだなと思います。そこで軸が完全にピアノに戻った。あ、そうそう、私の原点はピアノだったんだ、って思い出しました。ピアノは4歳から、歌は20歳からだったし。その思いきり弾いた演奏をこんなに多くの人が受け入れてくれたんだという事実が『私のピアノ、これでいいんだ、抑えなくて良いんだ』と。これからはもう思う存分、やらせてもらいます、と」

 時代は動画配信真っ盛り。彼女のカバー演奏にはたくさんのファンが押し寄せました。

「基本、運がいい。引きが強い、ってよく言われます」

 運だけではないでしょう。松尾さんには感情を音にストレートにのせて人の心にすーっと入っていく力があるのです。

松尾優さん

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