「この人と共演したい」と思う人に自らアプローチしていく。それは技術的な自信を積み重ねて、より純粋になっていった。
「もちろん、向こうからお話をいただいて、ということもありますが、自分からアプローチすることもあります。例えば、突拍子もないアイデアだったんですが、ジャズ界の巨匠ベーシストのウィル・リーにもこちらから一緒にアルバムをつくりたいとお願いしました。コンタクトを取ったら『いいよ』と。それで、ウィル・リーといえば、スティーブ・ガットとも一緒にやりたいと思ったんですが、ちょうどガットさんはいなくて。それで紹介してもらったのが、マーカス・ギルモアというドラマーでした。今やもう超トップアーティストになってしまったプレイヤーなんですが」
2012年、こうして出来上がったアルバム『Parade』がリリースされた。『インザムード』もあれば『リベルタンゴ』も入っていて『津軽じょんがら節』も、神奈川県の民謡『いかとりの唄』も入っているというジャンル超越の選曲だ。
この取材時にも弾いてくれた『リベルタンゴ』は緻密な音選び、トレモロというかアルペジオというか、別の楽器かのような響きも表現してみせる。楽器に縛られず、自由に原曲に迫っていく感じが実に気持ちがいい。ジャズの曲はジャズの曲で、ちゃんとスィングしてみせる。
そしてやはり浅野さんの弾く民謡は、ダイナミックかつ繊細で胸にあたたかい。
やはり彼にとって民謡は特別なものだ。大学時代には、民謡の日本地図もつくっていた。
「暇だったんで(笑)。無駄な時間だなと思いながらつくったんですが、今はもう、本当にやっておいて良かったと思っています。民謡ってとにかく一つの県に数千曲のレベルで存在するんです。 だから全部は洗い出せていないんですが、日本全体で何千曲かは書き出したかな。やってみてわかったことは、自分は勉強もそうなんですけど、見るよりも書くと頭に入ってくるんです。それをやったことで、今、ラジオで民謡番組をやったり、作家をやったりもしているんです。『なんか面白いのを知りませんか』と言われて即答えられるスピード感が必要なので、やっておいて良かったと思いますね」
パーソナリティーとしても登場しているのはNHK-FM『出会いは!みんようび』(金曜午前11:25~)、放送作家として携わっているのはNHK第一ラジオ『民謡をどうぞ』(東北地方、金曜午後0:30~)。そのほかにも、民謡を伝えることに意欲的だ。
「民謡の良さは、その土地、その町のパーソナリティーが、そのままの言葉とメロディーが一緒になって残っているということだと思います。それは文献と同じくらい価値のあることだと思う。それに、そのすべてが口伝えなので、ちょっとずつ変わっていっているんだけれど、その過程もまたその時々の当時の風景、人の考え方、暮らしを表しているんですよね。ある土地で、雪の深さがこんなだった、春に川に行けば何が釣れた。そういうことが残っていることは、知的財産としても素晴らしいし、エンタテイメントの一面ももっている。それが僕は面白いなと思うんですよね」。
浅野さんが民謡を大切に思うのは「津軽三味線という楽器と民謡が切り離せないからだ」とも語る。
「津軽三味線という楽器は、民謡のための楽器なんです。津軽三味線という三味線の種類は。ですから、民謡という部分はどうやっても捨てずに生涯関わっていかなければならないと思っています。民謡は知的財産ですし、昔の風景が残っていると言いましたが、現代の子どもたちに聞かせても何のこっちゃわからないでしょう。だから、時の流れのなかで、民謡自体も変わってきた。その時代の人の言葉で歌えば、同じ民謡も進化してまた新しい形で未来につながっていくと思うんです。だからそういう現代の感覚で民謡に携わることも積極的にやっていきたいですね」。
時間軸を超越して民謡との携わっていく一方で、空間を超えて、世界のさまざまな音楽と日本の民謡をコラボレーションさせる試みも続けている。
「この楽器と民謡を世界の人たちに浸透させていけるように、歴史の分岐点となるようにと、MIKAGE PROJECTというのをやっています。アメリカ南部の楽器だったバンジョーが世界に広まっていったように。津軽三味線も、象牙とか鼈甲とか、象牙とかいうものから、人工物に進化していっていますから。国内はもとより、世界も視野に入れたい」。