米、野菜、大豆、麦。ときには猪や鹿の肉。山に囲まれた鴨川ですが、千葉には海もあります。食べ物はほぼ自給自足です。醤油や味噌も、もちろん手作り。
一緒に、仕込んだ醤油を見にいきました。
風通しの良いビニールハウスに、大きな樽が二つ。かぶせてあった白い布をはずすと、醤油のいい香りが漂いました。
「大豆を茹でて麹を育てるのですが、40度を超えると納豆菌が増えて全部納豆になってしまうので注意が必要。人間の体温と同じ温度で育てるのです。発酵してくると香りが変わります。どんどん変わっていくんですよ。2月に絞ります。忙しいですよ。でも、忙、って心がなくなると書くけれど、心がなくならない忙しさですね」
ちょっとお味見もさせていただきました。もうかなり醤油の味がしますが、まだちょっとしょっぱさが立ちます。これがどんどんまろやかに変わっていくのでしょう。
「おいしいですよ。おいしいという幸せは死守したい。頭で考えない、身体的感覚を信じています」
自然との共生は生半可ではないでしょう。たとえばどんぐりやタケノコを食べて育ったおいしい鹿も、自分で捌(さば)かなくてはならないのですから。
でもYaeさんはしっかりとそのひとつひとつと向き合っていくことができる人。
「私は匂いには敏感なんですよ。前世は犬だったのかも(笑)」
野草の様々な香りをかぎわけながら、山道を歩いていくたくましい姿についていきました。
「野草はたくさんあって、栽培しなくてもいろんな草のいい香りがします。季節ごとに全然違う。どくだみもいい香りがしますよ。草が元気で生命力にあふれていて。父がなぜここを選んだのかわからないけれど、守られている場所のような気がしてきます」
山道の途中には、イノシシを捕まえる仕掛けもありました。
「イノシシの肉もおいしいですよ。すごく元気が出ます。人によっては興奮して眠れないというくらい!」
少し怖いのは、アナグマ。
「この間、大きなアナグマがうちに入ってきちゃったのです。でも、食卓の上にあった料理には目もくれず、ゴミ箱に捨てていたカップラーメンもあさっていたようでした。それくらい、カップラーメンって強烈な香りなんでしょうね」
完全に自給自足にこだわらず、食べたいときはカップラーメンも。そんな無理のない暮らしぶりが見えてきます。