1995年に音楽劇『コルチャック先生』で女優として出演したのが音楽プロデューサーの目に止まり、2001年にシンガーソングライターとしてデビューしたYaeさん。今、彼女の音楽は「ワールドミュージック」とでもいうべき、国境やジャンルを超えた世界を築きつつあります。
今年6月に東京・渋谷オーチャードホールで行われた登紀子さんとのコンサートでは、4曲を歌い、新たな存在感を示しました。
「各国の民族音楽、伝統音楽といったジャンルは、とても魅力的に感じます。母が聴いていたレコードが自然に身体のなかに入っているのでしょうね。イスラエルの民謡などを聴くと、懐かしいという感情が湧いてきて、涙が出てきます」
デビュー直前の24歳の頃、ポルトガル、アイルランド、イタリアと、家族にも言わず一人旅をしたそう。
「アイルランドのダブリンに着いて、インフォメーションで『音楽を聴くにはどこにいけばいいですか』と聞いたら『西へ行け』と言われました。それで、バスを教えてもらってゴールドウェイという町へ。そこはストリートミュージシャンもたくさんいて、楽しいところでした。パブでセッションして、日本語で歌ったり。さて、泊まるところはどうしよう、みたいな(笑)」
インドでは、砂漠へ行きたいと、パキスタンとの国境へ。
「物乞いの子どもが無理やり『聴け』とばかり演奏していたり。そのアピール力に『ああ、このぐらいしないといけないのかも』と思ったり」
農業が父・藤本敏夫の遺伝子だとするなら、旅して歌う歌い手魂は、母親譲りの遺伝子であるのかも。
「音楽と農業は近い。もう大量生産、大量消費では続かないのではないでしょうか。手作りでゆっくり栄養素の高い音楽を出していかないと、残っていかないと思いますね」。
シンガーソングライターとして、唯一無二の存在を探り続けてきたYaeさんは、今年20周年を迎えました。
「10月7日に『On The Border』というアルバムをソニー・ミュージックよりリリースします。登紀子と『未来への詩(うた)』プロジェクトで3回ライブをしたのですが、そこで受け継いでいきたい歌を中心に、自分のオリジナル曲、カバー曲など13曲入れる予定です」
時には登紀子さんと議論を闘わせながら、熱いレコーディングが行われています。
「今の時代には、私は押し付けがましいメッセージは必要ないと思うのです。歌の歌詞にはっきりとは書かれていなくても、同じ人間どうしが、なぜ争わなくてはならないのかという心に響く音霊が入っている。それを伝えればいいと思います」
8月27日には、 Yaeが主題歌「カゼノネ」を歌唱したゲームソフト『ファイナルファンタジー クリスタルクロニクル』がスクウェア・エニックスから全世界同時発売されました。
また、主題歌「カゼノネ」「星月夜」を収録したサウンドトラックも9月2日にリリースされます。
「オープニングとエンディングの歌とナレーションもやっています。15年前にリリースしたものではあるのですが、今回再収録しました。今、どう伝わるかが面白い」
農業と歌手、両方が相互に影響しあい、どちらもYaeさんにとって実りのときを迎えているのかもしれません。
「私は親に対する反抗期が長かったんです。芸能界を狭い世界だと思っていた。そのなかで生きていくのは不安だという思いもありました。でも実際にやってみたら、いろんなアーティストとセッションできたり、とても楽しい経験が残っています。今は呼吸するように、食べるように、歌えばいいと思っています。聴く人も楽な気持ちで聴くことができるような音楽をと思うのです」
レコードやCD以外にも今、配信という形で世界中に即座に音楽を届けることができる時代。Yaeさんの風のような歌声は、これからの世の中に必要な澄みきった水や空気のような存在になっていくような気がします。
2020.11.10(火)<東京>
Yae 20th Anniversary Concert @東京・渋谷「伝承ホール」
歌手20周年となるYaeの単独コンサート!
<Yaeメッセージ> 未来へと残していける歌を、つないでいきたい!
私のデビューアルバムは「new Aeon」新しい時代が始まり、何億年も残っていく音楽、という意味です。すごい壮大ですが、今またより強く同じ気持ちを感じています。
あれから20年、土の上に根を下ろし、3人の母親となって、歌声も強く、自由になってきました。歌うことは私にとって本当に気持ちのいい至福の時。
心からの大きな愛と感謝をこめて!この20周年コンサートでは、ぜひたくさんの方々へ歌をお届けできたらと思っています。そしてお会いできることを楽しみにしています。 Yae
開催日/2020年11月10日(火)
時間/<昼の部>15:00開場15:30開演 <夜の部>18:00開場18:30開演
料金/¥4,500(税込、全席自由)
会場/東京・渋谷 渋谷区文化総合センター大和田「伝承ホール」
東京都渋谷区桜丘町23-21
tel.03-3464-3251
お問い合わせ/トキコ・プランニング tel,03-3352-3875
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 上平庸文