ファーストアルバム『Red Violin』からは、彼女の作曲力も注目されていきます。
「曲としては物心ついた頃から、モチーフを書くのは好きだったのです。作曲で大切なのはひらめき。良いひらめきのモチーフから展開していけますから。小さな物語が連なって長編小説になっていくのと似ているかもしれませんね」
あまり理屈や理論から攻めず、ひらめきで次が決まってきたという川井さん。そのひらめきが誘った場所のなかに、パリのオペラ座やNYのカーネギーホールがあるのですから驚きです。
その2箇所で両方演奏した奏者は一体どれだけいるのでしょうか。
そこでしか見えない景色を尋ねてみました。
「まず日本でのコンサートと違うのは、お客様の反応や雰囲気ですね。海外でも、演奏中に声を出されることはありませんが、それぞれのお客様の感性がビシビシと伝わってくるのです。ロマンチックな曲を弾くと、恋人同士が手を取り合ったり、表情が変わっていくのが見える。ストレートですよね。だから、こちらもストレートに反応して演奏できます。日本の場合は、お客様同志が協調して和を作ってくださる感じ。どこで拍手するのか周りをうかがっておられたりすることもあります。それはそれで、ありがたいものですが」
カーネギーホールでは、海外ならでは?のハプニングもありました。
「演奏中にいきなり舞台上の照明がパーン、と音を立てて割れたのです。パラパラと硝子のはへんが落ちてきた。気を取り直してもう一度弾き直し始めたら、また割れたのです。お客様はテロの発砲音かと思った人もいたようです。電球の老朽化だったようですが」
オペラ座でも、観客との熱いやり取りがありました。
「コンサートが終わった後、感動して楽屋に訪ねてきてくれた人がいました。『あなたの音楽は人間が言葉を持つ前の混沌とした気持ちを音に集約しているようなプリミティブな強さを感じる。バッハのシャコンヌも、新しい世界を感じさせてくれました』と言われました。和楽器の方達と演奏したのですが、本当に嬉しい言葉でしたね」
まさに6歳の川井さんが感じたヴァイオリンの音の雄大さ、強さが、彼女を通して今度は聴く人の胸に蘇ったかのようなお話です。