3人は中華街の香港路という路地にある、小さな店にいた。
「お粥を初めて出したのは、ほんまはここやったらしいよ。でも、なんでも美味しいねん」
幸が、ビニールで覆われた町中華のようなメニューを見せる。ヒトミは周りの人のお皿を見渡して、メニューの中の文字と答え合わせしているようだった。
「あれ、みんな、もつの入ったお粥さん、食べてはるね」
「うん。〆はあれかな。ホルモン嫌いな私でも、あれは美味しいと思う」
幸が言うと、ケイがへえっと声をあげた。
「ママ、ホルモン嫌いやったっけ」
「うん。大阪人のくせにね。あんまり脂っこいのんとか、消化でけへんでしょ」
「私は若い頃は食べたけど、今はやっぱり、もう脂っこいのん、かなんわ… そやけど、唐揚げはいっときましょうね」
脂っこいものがダメだと言った端から唐揚げという。大阪のおばちゃんには珍しくない急展開に、幸は吹き出した。
「ほんま相変わらず、ケイちゃんも面白いわ」
「ケイちゃんも、って何気に私も含めましたね。…はいはい、唐揚げはいっときましょう。金運アップやからね」
「唐揚げで金運アップ? そんなことだれが言うてるの?」
「ドクターコパやったかな、ゲッターやったかな…」
「それを言うならゲッターズ、と違う?」
「1人やから、ズ、要らんのんちゃうの」
「いやー、いるやろ」
テーブルの上の3人漫才は、店の細面の女将が笑いを堪えてオーダーを取りに来るまで続いた。
「ええと、紹興酒、ボトルで」
女将は「さもありなん」という顔をして、二度頷いた。