丸鶏のローストチキンは、詰め物によってアレンジが変えられる。幸が習ったものは、おこわを詰めるやり方だった。これだと、チキンの肉を少ししか食べられなかった人も残ったおこわでお腹を満たすことができる。
まず、おこわを炊く。具材は赤いピーマンかパプリカ、いんげん、鶏レバーと砂肝、干し椎茸、そして甘栗。
「甘栗って、あの中華街で売ってるやつですよね。ごはんに入れちゃうんだ」
「そうなの。ドンキで買ったのよ」
洗って30〜40分置いた餅米に具材を載せて塩味で炊く。習ったものはごま油も入れていたけれど、幸はそこまで中華風にしたくはないので、オリーブオイルとバタにした。
「炊き上がったおこわを丸鶏のお腹に詰めるんだけど、お腹に詰めるのは、いろんなきのこと玉ねぎをソテーしたものとかでもいいかも。でも鶏の出汁がおこわに染みて美味しくなるのよ」
「なるほど、美味しそう」
「じゃ、鶏の処理ね。表面もお腹の中もよく洗って、血などを綺麗にして、しっかり水気を拭いて。
そこににんにく、レモン、塩、オリーブオイルの順番で全体にすり込んでいきます。順番にやろうか」
半分に切ったにんにくを幸が鶏にこすりつけて見せた。
「お腹の中までしっかりね。美味しくなってね、って言いながら」
凛花は素直に「美味しくなってね」と呟いて、レモンをこすりつけていった。
「そうそう、最後は絞って全体にかけて、マッサージしてあげて」
「面白い。エステみたい」
塩を幸が担当し、凛花はまたオリーブオイルで鶏をマッサージした。
「盛ママ、どうして私にこれを教えてくれるんですか」
幸は2羽目を取り出して言った。
「私も赤坂時代にね、お客さんの妹さんで白金で教えていたマダムマサコっていう人がいてね。私、ひとりのクリスマスで、なんだか寂しいときだったから。教えてもらってみんなで食べて、すごく嬉しかった。だから、そういうありがとうをね、恩送りしたくてね」
「恩送り…」
凛花はその言葉を遠くの星を見るような顔で呟いた。
幸は、過去を吹っ切るように、さっさと話を変えた。
「1羽ずつしか焼けないからねえ。開店までに1羽は焼いておいて、1時間ごとに焼いて出しましょう」
3羽分を処理し、サーモンとアボカドのカクテルやシャルキュトリーの盛り合わせも作った。あとは野菜スティックとゆで卵をバーニャカウダ風のアンチョビのソースや、味噌の和風、コチュジャンとマヨネーズなどで食べてもらおう。
ひと通り料理が出来上がると、2人はすっかり疲れていた。
「あー、一杯飲みたいところだけど」
「 一杯だけならいいんじゃないですか」
スパークリングを開けてしまった。今日は大阪から堅下ワイナリーの「たこシャン」を仕入れていた。
「乾杯の、れんしゅう〜。メリークリスマス」
ひと口飲むと、幸は、凛花がきっとずっと思い続けているだろうあのことを思い出した。 …大城は来るだろうか。