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  • 第14話 本日のお客様への料理『おとなナポリタン』

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🥂Glass 2

 しばらくするとセルジュ3人組は「塩ラーメン食べに行こう」と消えていった。
 幸は、佐伯と向かい合った。
 彼一人になると、つけているオードトワレの香りがわかった。
 爽やかなグリーンのなかに、少し煙草の香りがするようだった。スモーキーだけれど臭くはない、煙草にする前の葉っぱのような。

「早速来ていただいて、嬉しいです」

 佐伯は金色の液体が注がれたグラスを少しあげた。

「いただきます。あ、あなたも何か、飲みますか」

 幸は珍しく遠慮した。

「いえ、まだ時間が早いので。それに、何か召し上がるなら、作らなくちゃ」

 佐伯は、じゃ、と、ひと口飲んで、グラスを置いた。

「ああ、うまいな。アルザスもいいけど、やっぱりドイツのリースリングの、キリリッとした酸味がね…」

「ドイツにもいらしたことがあるんですか」

「向こうのオーケストラとやりました。昔話ですよ」

「ドイツってどんなところですか」

 幸の大雑把な質問に、佐伯はふっと笑った。

「僕がよく行った頃は、まだ西と東に分かれていました。一つの国のなかで、共産圏と資本主義の国がくっついているくらい違った」

「みんな、じゃがいもとソーセージ食べるんですか」

 さらに大雑把な質問に、佐伯はまた笑った。

「面白い人だな。…まあでも、当たらずも遠からずですよ。今はきっと、アメリカンフードもいろいろあるんだろうけどね」

 幸は、パリとニューヨークと香港とソウルしか行ったことがなかった。ほとんどいつも買い物ツアーだった。もっと違う旅行をしたらよかったと幸は思う。行ったことのない海外の話を聴くのは、大好きだった。
 好奇心旺盛に瞳をきらきらさせている幸の顔に促されて、佐伯はいつもより饒舌になっていた。

「この間来た恭仁子とね、学生の時、初めて行った海外が、グアムだったな」

「え、旅行に行ったんですか」

 佐伯は行った、とも行かなかった、とも答えず、こう言った。

「… グアムはつまんなかったね」

 幸はそれ以上、突っ込んではいけない気がして、黙った。

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