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  • 第15話 本日のお客様への料理『菜の花と帆立のちらし寿司』

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🥂Glass 2

 「あの、ちょっといいかしら」

 「あら。凛花ちゃんのおかあさん!」

 幸は驚いて、扉の前まで駆け寄った。

「どうぞお入りください。さっき、凛花ちゃんと、大城さんが…来てくれましたよ」

 矢作夫人はきまりが悪そうな表情で、水色の薄いダウンジャケットをコート掛けにかけた。hernoというタグが見えた。下は黒のトップスで、顔つきをさらにシャープにしていた。左の髪を耳にかけて、椅子に座った。

「おめでとうございます」

 幸が微笑んでお辞儀をすると、顔をそらして言った。

「あ、あの、私…、あの」

「何か、お飲み物でもいかがですか。今、美味しい白ワインを開けたんですが」

「じゃ、それいただくわ」

 幸はグラスに、サンセールを注いだ。ほんのり黄緑かかった液体が、グラスで輝いた。

「乾杯」

「乾杯」

 二人はちょっとグラスを掲げた。矢作夫人は、そのグラスに少し口をつけて両手でステムを持ち、静かにテーブルに下ろした。

「あの、私、あやまらないとと思ってるんです、あなたに」

「…」

 幸はちょっと待った。矢作夫人の言葉を。

「いろいろ、失礼なことを言って。悪かったなって…」

「…」

 何を言われたんだっけ。あ、そうそう、こんな店で娘が働くなんて許せないとか、いろいろね。… しかし、矢作夫人の口から「ごめんなさい」という言葉は聞こえてこなかった。
 幸は気づいた。ああ、この人はあやまったことがないのかもしれない。あやまれない人っているのだ。ここへこうして来てくれたことが、あやまっているということなんだ。それでいい。十分、十分。
 空気を変えよう。

「ずっとお料理されていたんでしょう。何か作りましょうか」

「え」

 矢作夫人は思い出した。自分はすっかり何も食べていなかったことを。

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