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  • 第26話 本日のお客様への料理『牡蠣のジョン』

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🥂Glass 2

「やあ」

 最初にやってきたのはセルジュだった。

「いらっしゃいませ」

 恭仁子は過剰に笑顔をつくり、大きな声をかけた。

「元気がいいね」

 セルジュは吹き出して、奥にいた幸に目配せした。

 今日のランチが参鶏湯であることは、Instagramで知らせてあった。

「参鶏湯が食べたくなってね」

 メモをもって構えていた恭仁子は、拍子抜けしてため息をつき「参鶏湯ひとつお願いします」と小さい声で言った。

 セルジュはちょっと鼻をクンクンさせたが、何も言わなかった。
 そこへ、若いカップルが入ってきた。見慣れない顔だから、観光客だろう。

「いらっしゃいませ」

「ええと、メニューありますか」

「あ、はい」

 飲み物を書いたメニューを差し出すと、カップルの男性の方が言った。

「ランチは」

「今日は参鶏湯になります」

「一択ぅ??」

「すみません」

「じゃ、なんかケーキとかありますよね」

「今日は…」

 恭仁子は幸に目線で助けを求めた。幸は首を振った。

「ケーキは今日はないみたいです」

「えー。でもケーキの匂いするんだけどぉ」

 カップルの女性の方が鼻をクンクンさせて言った。

「別のとこ行こっか」

 男性が言うと、めんどくさそうに女性も立ち上がった。

「すみません。またお願いします」

 恭仁子は泣きそうな顔になった。
 ケーキの匂いは、間違いなく自分の香水の香りだったのだと気づいたのだった。

Glass3🥂

 幸は温めた参鶏湯に水菜のサラダを添え、トレーに載せてセルジュのもとに運んだ。

 

「熱いですから、お気をつけて」

 そうして立ち尽くしている恭仁子に声をかけた。

「大丈夫、時々ケーキも焼くから」

 セルジュは黙って、自分の髭に気をつけながらゆっくりと参鶏湯を口の中へ運んだ。

「熱っ」

 それを見て、恭仁子はコップに水を入れてセルジュのトレーに置いた。

「ありがとう。気が利くね」

 恭仁子は恥ずかしそうに口角をあげて小さくお辞儀した。心の中で「一敗、一勝だわ」と呟きながら。

 その後も客は一人、二人とやってきた。満員御礼の大盛況というわけではなかったが、なんとか恭仁子のバイト代も出せるくらいに。

第26話 本日のお客様への料理『牡蠣のジョン』

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