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  • 第26話 本日のお客様への料理『牡蠣のジョン』

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🥂Glass 4

 17時前に、客はいなくなり、幸は「おつかれさまでした」と、恭仁子に声をかけた。

「幸さん、ごめんなさい」

 恭仁子はエプロンを丸めながら謝り、また下から目線で幸を見上げた。

「私、なんか足手まといですよねえ」

 幸は首を振った。

「そんなことないわよ。初日にしては上々よ」

「でも香水から失敗しちゃったし」

「それはつけすぎなきゃいいことだから」

 そんなことを話していると、かちゃり、とドアが開いた。

「あら、お迎えが」

 妻のバイトデビューを心配した岡部良介が首元にマフラーをぐるぐる巻いて立っていた。

「こんばんは。邪魔してませんか、うちのが」

「いえいえ、すっかりお世話になりましたよ。おかけになって、まあ、一杯だけ打ち上げしましょう」

 幸は牡蠣のジョンを焼くことにした。
 茹でたいんげんとスナップエンドウを楊枝で繋いだものを取り出し、振り洗いしてあった牡蠣の水気を拭いて、どちらにも刷毛で粉をはたいて、卵をくぐらせて焼くだけの料理だ。
 ソースはヨーグルトとマヨネーズとコチュジャン、自家製のレモンシロップを少し混ぜる。

第26話 本日のお客様への料理『牡蠣のジョン』

「マッコリが飲みたくなるわね」

「あ、僕、買ってきたんですよ」

「えー」

「どうして」

 良介は得意げに言った。

「だってこの店になさそうな酒はそれくらいだから」

 それだけで、もう最高に幸せな日になった。
 これでいいんだ、と、幸は思った。

第26話 本日のお客様への料理『牡蠣のジョン』

筆者 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

イラスト   サイトウ マサミツ
イラストレーター。現在『婦人之友』表紙と目次。
J-WAVEラジオ番組『TALK TO NEIGHBORS』2つのイメージイラストを手がける。
*絵本:『はだしになっちゃえ』『ぐるぐるぐるーん』他(福音館書店)『Into the Snow』他(Enchanted Lion Books)など多数。
*ホスピタルアート: 愛知医大新病院 他、現地で手描き制作。その他壁画、ウィンドウアート、ライブドローイングなど幅広く活動。
Instagram:masamitsusaitou

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