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  • 第34話 本日のお客様への料理『酢橘とプチトマトのラーメン』

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🥂Glass 4

「ミツコ、元気やったか。…そうか、元気なわけないか」

 そう言って、竹内はグラスのワインをぐいっと飲んだ。

「そうか。死んだんか。そうか。今日は弔い酒や。呑むぞ」

「お付き合いします」

 二人はそこが店だということを忘れたように飲んだ。
 ワインが二本空きかけた頃、竹内はラーメン食いたいと言い出した。

「お客さんと食べて来はったんでしょう」

「客と食べて、味がわかったことあるかいな。遠慮してんのや、オレでも」

「ラーメン、つくりましょか」

「そんなんもできんの」

 幸は冷凍してあった邦栄堂製麺の平麺を取り出した。酒を飲んだあとだ。具はさっぱりした方がいいだろう。
 そこで、トマトと、すだちを使うことにした。
 あらかじめ、ざく切りにしたトマトを胡麻油で炒め、そこへスープを注ぎ、しばらく煮る。3分半茹でた麺の上に薄切りにしたすだちをのせ、トマト入りのスープをざっとかける。

「すだち蕎麦は好きで食うけど」

 そう言いながら、スープをひと口啜るなり、竹内は唸った。

「旨い」

 そう言うなり、一気に食べ始めた。食べ終わる頃には、顔が汗にまみれた。

 少し酔っ払った勢いで、幸はおしぼりを渡しながら、言った。

「竹内さん、ミツコさんに子どもがいてたら、どないします?」

「え」

「…」

 幸は竹内の目をじっと見つめた。竹内の目が左右に少し泳いだ。人は答えを目の前の空に探すものだ。

「いや、え、まさか、オレの…」

 答えの代わりに、幸は二本目のワインの残りを、竹内のグラスに全部注いだ。

第34話 本日のお客様への料理『酢橘とプチトマトのラーメン』

筆者 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

イラスト   サイトウ マサミツ
*J-WAVEラジオ『TALK TO NEIGHBORS』の番組イメージイラストを2種類制作。
*『婦人之友』2024.4月号〜2025.3月号の表紙と目次の絵。
*絵本:『はだしになっちゃえ』『ぐるぐるぐるーん』他(福音館書店)『Into the Snow』他(Enchanted Lion Books)など多数の絵を手がけている。
*ホスピタルアート: 愛知医大新病院 他、現地で手描き制作。その他壁画、ウィンドウアート、ライブドローイングなど幅広く活動。個展も多数開催している。
Instagram:masamitsusaitou

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