《3》
希望は無表情なまま母親に問うた。
「なんでおかしいの」
「おかしいわよ。ホテルなのよ。ちゃんと足元が隠れるようなドレスでないと」
「…」
もう注文してしまった後だ。未知はとっさに足元が隠れる長さにしてもらえるだろうかと思った。でも、それが全体のデザインにかかわることなら、きっと百合子さんは嫌な気持ちになるだろうとも思った。
おそるおそる希望の横顔を見ると、彼は小さくため息をついた。
「未知さんは、僕の靴が見えるように、って、考えてくれたんだよ、おかあさん」
「まあ、…それはそうだけど」
「僕は、それがとても嬉しかったよ」
淡々とした言葉だったが、未知が目の前のもやもやした霧がすっと晴れるようだった。
「ドレスのことは好きなものを彼女が選ぶっていうことになってたし」
「… じゃあ、お色直しはやっぱりお着物かしら」
未知は1枚のドレスで通そうとしていた。しかしどうやら、そうもいかないのかもしれないと気づいた。
公子はいいことを思いついたとばかりに提案した。
「私の振袖を着てもらえないかしら。昔、やっぱりお色直しで着たの」
未知はそれを見るまでもなく「ありがとうございます。ぜひ」と、小さく頷いた。